マンモスを獲る    小堺高志    2009年11月16日

 

日本では自民党から民主党に政権が移り、さまざまな変化が起きている。鳩山政権は友愛外交を歌いながら、アメリカ軽視、アジア重視、外人永住者参政権、一度国と国の間で合意された沖縄米軍基地移転計画の見直し、極端な温室効果ガス削減、高速道路の無料化、円高容認などで、閣僚の発言に一貫性がなくブレつづけ、政策に矛盾が多すぎる。また国民は反米政権を期待して民主党を選んだわけではない。私は今の民主党のそれらの政策には首を傾げたくなるのである。友愛では国家間の損得と基本的な価値観の差は埋められないし、弱腰を見せると、何処までも付け込まれる外交ゲームで鳩山首相の友愛外交は通用するとは思えない。国際的な人間とはちゃんと自分の思いを外国人に伝え理解を得られる人のことであり、外国と無条件に仲良くすることでも、自分の意見を強引に押し付ける事でもない。残念ながら鳩山首相は本当の国際感覚を持っていない人である。
政治は目先の選挙用の人気取りでなく
1020年後の行く末を見つめた政策を進めなければ、日本はどんどん2流国家になっていく。国家予算の半分を赤字国債にたより、節約は焼け石に水である。国民の質と、国家の質が日本をここまでひっぱってきた。今は過去の遺産で食いつないでいる状態。国際競争力を失うとその遺産もやがてなくなっていく。国の没落は国民の生活の質の低下を意味する。このままでは収入が減り、貧富の差が大きくなり、国民年金や医療制度の質も落ちていき、日本はどんどん暮らし難い国家となっていく。マニュフェストに縛られ、反対意見を聞かない政策は無理がある。科学技術立国として国民に目標とモチベーションを与え、もっと税収を増やすバランスの良い政策に、日本の進むべき道があるように思う。

 

マンモスは一週間前からオープンしているが、公式なオープンはこの週末からである。30センチの人工積雪のベースに昨日12cmくらいの新雪が降っている。まだリフト2本での営業であるが、私は昨シーズンと違い、腰の具合も良いし、初すべりはいつも気分が高まる。「マンモス?捕ってやろうじゃないかい」。その昔、マンモスにはマンモスが住んでいたのである。化石が出るのでマンモスと名づけられた地名であるが、スキー場のある山の形もマンモスの背中に似た曲線をしている。

原ちゃんは[腰の具合が万全でなく本格的な雪が降るのを待ちます]、と言うことなのでシーズン初めは佐野さんと菊池さん私の3名で行く事になった。

関節炎で昨シーズンの後半をほとんど棒に振った佐野さんはかなり足の具合は良くなり、本人が言うには95%の回復だそうである。私も昨シーズンは前半腰痛で体調十分でなかったから今季はスキー三昧の仲間が揃ってマンモスにリベンジしたい想いである。

今シーズンは良いシーズンでありますように。それじゃあ、マンモス狩りに出発!

 

5時半ごろサンタモニカを発ち北上すると道路は14番に乗るまで結構混んでいる。モハベのピザ屋さんの駐車場の車中で持参の弁当を食べることにした。ここはお店の入り口の従業員から見えない位置にトイレがあり、勝手に使わせてもらえる。お弁当は私が出がけにトーレンスの日系マーケットで買ってきた焼肉弁当と鯖焼き魚弁当である。佐野さんの家を出るときに電子レンジにかけてきたので、まだ温かく、ご飯もぼそぼそしていない。これからはこの手だね。

 

395号線に入ると星空が今日は一段と綺麗である。「佐野さん、今日は月見ならぬ星見酒をして行こうよ」と提案。マンモスも近くなったレーククローリーのキャンプ場の入り口に車を止めライトを消すと頭上は満天の星空。流れ星が走る。先ほどのガスステーションでプラスチックのコップを2つ貰ってきていた。使用法は勿論・・・トランクからお酒を取り出して注ぐ。星見酒である。今日のお酒は日本から持ってきた「真」、故郷の高校の同級生、池田くんの千代の光り酒造が造るお酒である。すっきりとした飲み口が爽やかで料理にも、こんなシュチユエーションにも合う。頭上いっぱい、南北に天の川が流れる。冬の星座オリオン、何度も見ている風景であるが、今夜の透明感いっぱいの星空はまた格別である。自分もこの銀河系の一角に存在していると思うと感動する風景である。冷たい空気の中で飲む日本酒が美味い。


星空を眺めながら日本酒で乾杯

 

マンモス近く、395号線を下りてすぐ、「ここでこの前、原ちゃんと来た時、ボブキャット(山猫)を見たよね」と佐野さん、結構このへんにはいるはずだが、私は野生の状態の山猫はまだ見たことはない。「それは野良猫より1まわりくらい大きいの?」「3まわりくらい大きいね」「じゃあ、ライオンより5まわりくらい小さいんだ?」「ライオンよりは10まわりくらい小さいね」と意味のない話をしているうちにマンモスに着いた。しかし、良く考えるとこの1まわりという単位はとてもいい加減な単位である。

たとえば、たとえばだよ、佐野さん。

「小堺氏は佐野さんより1まわり人間が大きい」という文章があったとする。この表現で佐野さんから私の大きさを推測するのは難しい。かといって「2まわり大きい」と言ったら佐野さんが小さな人間になってしまう。うーん、やっぱり2まわりかな?ははは。

 

宿のシャモニーのコンドに近づくと道路脇に日本ではおめにかかれない大きな松ボックリが沢山落ちている。これをいくつか拾っていく。暖炉で燃やすと松ヤニを含んだ松ボックリは気持ちよく燃えてくれるのである。

シャモニーの駐車場にはほとんど車が止まっていない。やっぱりオープニングとはいい、この状態でスキーにくるコアなスキーヤーは少ないようである。まー、今回私らはスキーというより、日ごろのビジネスからの気分転換と、美味いお酒を飲みに来たのであり、スキーは今回は足慣らしである。1時間遅れくらいで菊池さんが着く。簡単なおつまみを作り、3本目のビールを空けながら、足慣らしとは言い、気分は高まってきた。


巨大松ボックリ

 

6時に目覚めた私は昨夜の佐野さんのリクエストに答え、ご飯を炊き、キムチ入りのオムレツを作り、味噌汁を作り、漬物を出して、日本の正しい朝食を用意して二人を起す。やっぱり日本人の朝食はご飯だねと言いながら朝から2膳飯。

9時に初滑りに出発。見ちゃったもんね。佐野さんがすでに靴下を履いている方の足にもう片方の靴下を履こうとしてるの。今季のマンモス狩り大丈夫かな?昨日は私の事を「運転中、話しに夢中になると、速度が落ちても気が付かずにそのまま走り続けている」と批判していたが、佐野さんもなかなかどうして老人力が強くなっている。でも出がけに佐野さんのリュックに忍ばせた7缶のビールには「こんなに持てないよ」と気づかれてしまった。

 

風もなく、澄んだ青空はスキー日和である。太陽の下で見るマンモスは想像していたより真っ白に雪化粧している。キャニオンロッジがオープンしていれば、歩いてすぐにリフトに乗れるのだが、今はまだメインロッジしか開いていないので車で行かなければならない。駐車場が混んでいて、駐車してからシャトルを待たずに行くには300mほど歩かなければならなかった。メインロッジの目の前から出ているブロードウエーのリフトに乗り、もう一つ上に行くフェースのリフトに乗り換える。人工雪も作りたてはフカフカで自然の雪と変わらない。ちょっと硬いアイシーな所と新雪っぽい雪が同居している。シーズン初めでも8コースほどが滑られる状態になっている。さらに昼間から人工雪を作り続けているので寒い温度が続けば条件はもっとよくなってくるであろう。


雪を踏みしめるように滑りだす。1本滑っただけでシーズン初めの使い慣れない筋肉がすぐに軋みだす。

佐野さんもちゃんと滑っている。結構足の具合は良いようであるが、滑ってみるまでは不安だったそうだ。でも無理は禁物、早くもマンモスの反撃で佐野さんは大事を取って退散して休憩。

佐野さんを置いて、菊池さんと午前中滑り続ける。山歩きをしている大男菊池さんはマンモスをねじ伏せるような力強いスキーである。北海道の室蘭育ちの彼も、いつの間にか私らと滑り始めて4シーズン目となる。大雪山のヒグマのように寡黙な男であるが、私のたわごとも真剣に聞いてくれるので良い仲間である。そして我々流の楽しむスキーを堪能しているし、我々の仲間の一番の必要条件である飲みどころを心得ている。という訳ですぐにビールタイム。毎年恒例のオープニングデーのシャンペントーストが今年はない。そのかわり夜にスキー映画の映写会やロックコンサートがあるそうである。





 

メインロッジの中で佐野さんを探すが見当たらない。

ゲレンデの見えるベランダでビールを飲んでいると15分ほどすると一滑りしていた佐野さんが合流した。もうテニスをしていると言うだけに滑るのは問題なさそう。今季に滑られることを確認できただけで佐野さんの今回の目的は達成されたと言っていい。昼休みの後、またゲレンデに出る。今日は地元のマンモススキークラブの子供達が大勢出ている。オリンピックの年なのでレース用のゲレンデもすでに整備され、今はスノーボードパーク用に人工雪が造られ続けている。ゲレンデはまだ全体の5%くらいしか開いていないが、さすがに今日は初心者は少なく上手い人が多い。ゲレンデを見ながら持参のビール、焼酎のお湯割りを飲むのは美味い。しかしこの二人はこんなに綺麗な空気の中でよくタバコを吸ってくれる。飲み物もなくなったので引き揚げることにする。
私は帰りがけにヴィレッジのお店でスキーのポールを買った。



 

今夜の料理はトン汁と鶏肉の料理がメインである。昨夜から鶏肉と玉ねぎを紹興酒と醤油、黒酢、にんにく、蜂蜜のたれに漬けておいた。フライパンで炒めると出来上がりである。 

料理を仕上げてジャグジーに行くと、誰もいないので我々の独占である。温泉のように、心地よくリラックスの時間。ジャグジーから上がってワインで気持ち良くうたた寝している間に二人が料理を温めテーブルに並べていてくれた。料理も評判よかった。

 

日曜、今日も朝から雲ひとつない快晴。

数本滑って昨日は行かなかった山頂にゴンドラで行く。ここがマンモスの背中にあたる最高度地点である。昨シーズンにはここで雪の中に埋まっていた案内ポールに腰掛けたが、今はそれがむき出しで6メートルくらいの高さに聳え立っている。早く新雪で埋まって欲しいところである。山頂から下りるコニースには十分な雪が付いているがやはりアイシーなところがある。私のスキーは158cmしかないのでそのせいもあるが、やはりアイシーな斜面は苦手意識がある。私のバインデングは固い雪用と柔らかい雪用の切り替えが出来るはずであるが、さび付いているのか引っかかっていてソフト用にセットされたまま動かない。硬いバーンではスキーがぶれる。今期はこのアイスーバーンの苦手意識の克服を課題にしてみよう。硬いバーンにスキーの跡を刻み込むようなスキーを心掛けてみよう。



ゲレンデを眺めながら休憩中の佐野さんと私

人工雪を作っている吹雪の中にはいると良い雪があるが、石蹴りをするリスクがともなう。何度か雪に隠れた石を蹴飛ばしてしまった。この季節はしょうがないがスキーの滑降面を傷つけてしまう。すでに今期のスキーをオーダーしているので今のスキーはまだ十分な雪のない時の足慣らし用となる。3人ともだんだんと勘を取り戻し足慣らしも出来てきた。

 

11時に上がって昼に今回買ってきた昔懐かしい日清のキチンラーメンを食べて片付け、掃除をして、12時半にはマンモスを後にする。今月末のサンクスギビングの連休にまたマンモスに戻るつもりである。バックミラーにマンモスの全景が見える。やっぱりマンモスは100まわりくらい大きい。

 

マンモス獲ったどー!メインロッジの前のマンモス象の像とマンモスの全景

ビショップまで下るとまだ少し紅葉の名残りがあった。すぐ後ろを菊池さんが走っている。
最近はここでいつもビショップの街中の混雑を避け、右に回って裏道を行く
。これは原ちゃんのビショップバイパス高速説である。395号線の速度制限は大体65マイルであるが、80マイルまでは捕まらないらないと言れている。実際パトカーの前でも大体80マイルくらいまでは止められる事がないと実践で検証済みである。しかし、街中に入る手前からは段々と制限速度が低くなって街中は25マイルまでおちる。
そのため信号のない裏道の方が早いと言うのが原ちゃんの主張であり、真っ直ぐ行くと原ちゃんが必ず愚痴る。今回も私は裏道に入る。狭いのでそんなにスピードを出せる訳でないが、これで395号線に合流したら菊池さんをかなり引き離すことが出来るはずである。
紅葉の少し残る裏道を走って395に合流する。菊池さんは遥か後ろを走っているはずである。さらに差をつけてから菊池さんに電話してやろうと距離を稼ぐ。もうだいぶ差がついただろうと思うころ、遥か前に見慣れた車が。「佐野さん、あれ菊池さんの車じゃん」
もう絶対原ちゃんには騙されないぞと誓うのであった。原ちゃんサンクスギビングには一緒にマンモス狩りに来れるかな?


紅葉の名残り