新緑芽生え     5月11日    小堺 高志

 

暖かい日が続いている。久しぶりに佐野さんも参加してフルメンバーが揃ってのマンモス行きかとおもったが、金曜の朝になって佐野さんから電話があり前日からまた足が痛くなったので参加できないと連絡がはいった。せっかいフルメンバーでマンモスで宴会をやろうと通風の佐野さん用に魚の料理を用意していたのに、残念であるがしょうがない。

原ちゃんが6時くらいに拙宅に来た。そのままマンモスに向かうとフリーウエーが混んでいる時間なのでトーレンスで夕飯を食べてから行くほうが良いだろうということになった。トーレンスは全米でももっとも日本食レストランの多くあるエーリアである。選り取より実取りの選択がでくる。ラーメン屋に向かう途中で同じモール内にあるお好み焼き屋に行く先を変更していた。私は正直あまり庶民的お好み焼きを食べた覚えが無い、失礼。やっぱりお好み焼きは関西の食べ物であるからあまり食べる機会がなったということである。原ちゃんは広島の出身であるから美味い食べ方を教えてくれる。鉄板の上でつくるお好み焼きと焼きご飯はなかなかいける。

お好み焼きを作る原ちゃん

 

今夜は満月か、大きな月が浮かんでいる。ビショップで前を菊池さんらしい車が走っているので確認の電話を入れて「いまどこですかー」と聞くと「ビッグ パインです」との返事、しかし目の前を行くのはどう見ても菊池さん。すぐに訂正がはいる。「あ、すいません、ビショップです」そうでなければ前を行くのは誰だということになる。「そうでしょう、今、右手にデニースの所走っているでしょう。すぐ後ろを走っているのが我々です」。ということでボンズマーケットに一緒に立ち寄ってビールの買出しをする。

 

エルセントロはメキシコと国境を接する街である。新型インフルエンザの事を聞くと、「うちの街では、いま22人ですね」とさらりと言う。でももう感じとしては終焉に向かいつつあるという。

このインフルエンザは感染力は強いが季節性インフルエンザと比べても、あまり毒性が強くないことが分かってきて致死率も年間アメリカだけで4万人以上死亡するという季節性のものより低い。これほど大げさにする事もないのではないか、というのが最近のアメリカでの捉え方である。感染を防ぐより罹った人の治療に力を注いだ方が経済的で現実味がある。そもそもアメリカでは、いやおそらくアジア以外の国では一般にマスクをする習慣が無い。風邪の季節でも工事現場の埃よけ、病院の手術前の外科医と治療中の歯医者以外ではマスクをしている人を見たことが無いのである。マスクより手洗いとその手で口、目に触れないことが感染を防ぐといわれている。

日本は水ぎわ作戦でこのビールスを防ごうとしているが潜伏期間がある以上無理な話である。

 

一度夏には下火になろうが、ビールスは南半球や豚の体内に残り、秋には再び現れる。その時にはワクチンが出来ているであろうし、このインフルエンザもやがては季節性インフルエンザの一つとして埋もれていく物と思う。しかし、これから起こるであろうと言われる強毒性の鳥インフルエンザの予行練習としてはこの騒動は後ほど大いに評価されることになると私は思うのである。毒性の強い鳥インフルエンザは幸い豚インフルエンザより感染力は弱いといわれている。

しかし、再来週日本に行くという菊池さんは成田で10日間隔離される確率はかなりある。

 

2時半に寝て6時には目が覚めた。食事の下ごしらえとか朝から忙しくやることがある。外は快晴である。

スタンピーアレーからリフトに乗る。雪はまだある。マンモスのスキーシーズンはアメリカでも一番長いと思う。毎年7か月間のスキーシーズンは真にスキー三昧である。雪は荒れていて所々に硬い雪と柔らかい雪があり滑りにくい。いっそ柔らかくなった方が私は好きなのであるが。

何本かゲレンデスキーをして、休憩をするともう午前中からビールを飲んでいる原ちゃん。休憩の後ゴンドラで山頂にいく。コニースを行く二人を見送って私はゴンドラのすぐ下にあるクライマックスを下りることにする。出だしはかなりの絶壁であるが、そこを過ぎれば意外と滑り易い斜面となる。




山頂にはまだ4m以上の雪がある。   クライマックスの滑り出しとしたから見た斜面

 

ウエストボールに深いモーグルの跡が付いている。今年は腰痛等であまり一生懸命モーグルをやっていない。少し頑張ってみたがバンプがかなり深くて飛ばされてしまった。その後はビビッてしまって腰が引けてぜんぜん駄目である。頭の中でイメージをつくらないまま滑り出したのがいけなかった。完敗である。原ちゃんもすこし挑戦したがまだ腰が万全ではない。菊池さんが一人頑張っている。運動不足もあって、もうこれで充分である。12時にあがって午後からの予定に移る。


斜面に刻まれたモーグルの跡 

 

コンドのクロセットの戸が上手く動かないのを部品を買ってきていたので直す。

それからコンビクトレークに釣りにいく。

菊池さんはコンビクトレークの脇にそびえるマウントモリソンを少し登って見るという。そのつもりでアイルピッケルなど、かなりの装備を持ってきている。

マウントモリソンは佐野さんと原ちゃんが数年前に、元ヒマラヤ登山隊の頼さんにつれられて、山頂を目指したが、こっちだよと言う頼さんに付いて行ったら違う隣の山に登らされてしまったという逸話のある山である。

 

釣りは風が強くてあまり望めない。仕掛けを作るのに20分ほど罹ってしまった。仕掛けができてラインを投げ込んだら私の釣りはほとんど終わりである。あとは蟻地獄的獲物待ちの釣りで、魚がかかってくれたら上げるだけである。その当たりもないままビールを飲んで待つ。

周りを散歩してみる。何処も釣れていない。だいたいが一番つれない時間帯を承知で釣りに来ているのだから当然である。本当に釣ろうと思ったら早朝か日暮れ前である。

湖の周りの草木が若葉をつけ始め。淡い緑に春の香りがする。




新緑の春の色と香り


釣りをする原ちゃん、食べたのは買って来た魚の切り身

 

翌朝、原ちゃんは昨日頑張りすぎてモーグルまでやり腰が痛くて今日は滑らないという。菊池さんとゲレンデに向かう。雪質は昨日より柔らかい。私にとっては滑りやすいが、時たま重い雪でスキーに制動がかかる。マンモスはまだ全体が雪に覆われ、青空がまぶしい。

 

11時、雪も緩んできたので昨日の名誉挽回をかけてウエストボールに向かう。今日もすでに何人ものモーグラーが大きな瘤に挑戦している。今日は滑る前にモーグルの滑りのイメージを思い出していた。腰が逃げないように前に攻める滑りを心掛けると結構良い感じで滑れた。今日は昨日と打って変わって良い感じで滑れた。面白いが疲れる。途中で2回は休まなければならないが、昨日のリベンジは出来た。菊池さんがいつの間にかモーグルが上手くなってきている。ウエストボールを2度滑りあがる事にする。敗北感で終わった昨日と比べ、今日は充実感ある半日であった。

モーグル斜面とこれでシーズン終わりの菊池さん。 

春はリセットの季節であり、出発の季節である。新芽はまた新たな一年への芽生えである。暖かな日差しの中で雪が溶けて行く。そしてスキーヤーにとってはシーズンの終わりが近づいている。

菊池さんはこれが今シーズンの最後のスキーとなる。あとは成田で隔離されないように祈るのである。

新緑の中を南下すると、外気35度の夏日であった。