聖雪        小堺 高志    20071225

 

12月21日、まもなくクリスマス、街中の方々にライティングが目立つ季節となった。家内が2週間の予定で日本に発ち、私はクリスマスの前後に休暇を取り、年内をマンモスで過ごすことにした。

スキー旅行で9泊9日、こんな長丁場は私も始めてである。

 

先に発った佐野さんを追って、原ちゃんとマンモスに向かう。今日は満月、月明かりに照らされた雪山が白く浮かんでいる。神秘的で、神々しい姿である。ライトを消して走っても十分に道路が見える。

 

おととい30センチくらいの積雪があった。外は寒いが今日は晴れているので道路はドライでチェーンの必要はない。

シャモニーに着くと車の温度計は外気華氏7度を示している。摂氏ではマイナス15度位である。今回のメンバーがすでに着いていて迎えてくれた。急に今日参加を決めた斉藤ヒロちゃんは、すばやく行動に移り、我々より早くすでにマンモスについていた。

そして、佐野さんと一緒に着いたミッチーとその息子14歳の謙信君。一杯飲みながら就寝前のひと時を過ごす。

そこで原ちゃんが暴言、「佐野さん、昔、ミッチーのところの犬を絞め殺したでしょう」。いくら佐野さんでもそこまではしない。真相はミッチーの邸宅の留守を預かっていた佐野さん、その間に長いリードを付けられた飼い犬がバーのカウンターの反対側に飛び降りてしまい、運悪くリードが絡まり、首輪が首を絞めることとなり死んでしまったのである。

原ちゃん、最近髪を伸ばして後ろで束ねている。目指すは和泉元彌か?それとも・・・・・? しかしその見てくれはどう見ても、捕らえられ首を刎ねられる寸前の落ち武者である。

 ポニーテルの酔っ払い

 

25日からは私と佐野さんだけになるが、それまでは賑やかな毎日となりそうだ。予報では明日からさらに雪が降ると言われていたが、着いたとたんに予報が変わってきた。明日からはしばらく良い天気が続くと言う。9日間いるので、私の希望は9日間の晴天ではない。数日は吹雪いても良い。もっと新雪、降雪が欲しい。

 

翌朝も快晴。歩いてキャニオン・ロッジに行く。初心者コースで滑るミッチーと謙信君を残し、キャニオン・ロッジ エクスプレスからローラーコーストを1本滑る。さらに5番、フェースリフトと向かうが、昨夜の寒さで雪質は最高。気持ちイー滑降である。今日から私はニュー・ジャケットを着ている。薄黄緑色とでも言おうか、ズボンと色違いであるが上下がパステルカラーになった。大概 先頭を行く私は目印として、ある程度目立つ色合いを着ていないと、皆が迷子になる。

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新しいジャケットの組み合わせ           青い空と、白い雪

 

ここで休憩の時だけリーダーシップを発揮したがる原ちゃんが早くも「休みましょうか?」とマッコイステーションへ誘う。少し休んで私は「もう一本」原ちゃんも『もう一本』もちろん私のもう一本は彼らが休んでいる間にもう一本滑ってくるという意味であり、原ちゃんのそれは「ビール、もう一本」である。

 

ウェストボールに小さなコブが出来ている。リフト乗り場に向かうと斉藤ちゃんが沼ちゃんを見つけていた。彼らは今朝早くついてリフトが動き始めるまで、車の中で待機、25日までいるそうだ。

我らが最年長者のスキーヤー斉藤(太)さん、「どうも膝に水がたまったようだ。ストローで吸いださないと」と言いながらも体力があり、元気である。相変わらずの、おじさん駄洒落の休みない連発攻撃を受ける。

     
斉藤さんと沼ちゃん                 23番リフト

日中になって急に気温が上がってきた。摂氏8度、低高度ではすでに雪が解け始めている。それでもまだ良い雪質を保っている。フェースの正面に良い感じのコブが出来ている。そこからさらにウエストボールに続くやわらかいコブは挑戦のしがいがあり面白い。今年はとことんモーグルを追及したいのであるが、何処までいけるか。

 

二日目も昨日と同じく温かい。少し風があるが、雪は良い。

斉藤(広)ちゃんは今日で帰るので先にゲレンデへ出発。

朝5番のリフト乗り場に並ぶと3列ほど前に斉藤(太)さんと沼ちゃんがいる。我々に気づいていない。沼ちゃんは相変わらず苦しそうにゼイゼイ言いながら斉藤さんについていっている。休みを与えず先を行く極悪非道の斉藤さん。佐野さんが「斉藤さんに見つかると、またシゴキのペースで引っ張りまわされるから、気づかないふりを」と言うので、やり過ごすと、我々と逆の方に行ってしまった。

 

それでも、佐野さん、原ちゃんがマッコイステーションへ休憩に入ると、私は斉藤(太)さん達に合流して何本か滑る。今日はメインロッジ前のいつもならレースのトレーニングをしている斜面がすごく良い状態である。

 

午後から23番で山頂に行きコニースを滑る。グルームしてあり、、急斜面であるが、昨日よりかなり滑りやすい。

 

 

原ちゃん、沼ちゃんを置いて、斉藤さん、佐野さんとケーブルに乗って山頂に行き、デーヴィスに向かう。最高難度の斜面であるが高度が高く良い雪に覆われている。荒れた急斜面では体重の掛け方に注意して安定感良く滑る。

5番の斜面で斉藤さんと今日のさよならラン。途中まで滑った斉藤さんがこちらを振り返っている。私がシュートターンで追い越す。停まっている私を今度は斉藤さんがショートターンで追い越す。佐野さんが私を追い越す。そして斉藤さんは車を停めてあるスタンプアレーの方に戻っていった。

  
マッコイ ステーション にて休憩       ディービスの急斜面

 

キャニオン・ロッジに戻った我々は初心者コースにいるミッチーを探すが見当たらない。待つ間に私だけ8番リフトで数本滑る。8番リフトの下、ブルージェーは最後の急斜面がリフト乗り場の傍らに降りてくる。結構大きなコブが出来ている。一気に降りると、下で見ていた親子が喝采をくれた。

 

ディー 3 クリスマス イブ

風が強い、朝のうち山頂は勿論、5番も、フェースもリフトは動いていない。

しょうがなく比較的風の影響の少ないキャニオンロッジ近くで滑ることにする。

原ちゃんは昨夜も大酒を飲み二日酔い。

2本くらい滑ると、佐野さんがトイレに行きたいと言うので原ちゃんと8番リフトに一度乗り、佐野さんを待つことにする。8番リフトはいまだに古いままの、ゆっくりとした二人乗りのリフトであるが、普段でも遅いリフトが今回は取り分け途中で何度も止まり、スローダウンする。

レッドウイングの斜面には手ごろなパンプが出来ている。このくらいのコブは攻めのモーグルが出来る。ほぼ直線的に一気に降りて二日酔いの原ちゃんを待つ。

キャニオンロッジに下りたが、佐野さんはまだトイレから戻っていない。

やがて戻った佐野さん、長く時間がかかった訳を説明し始めた。トイレで用を足すのに手袋、帽子を傍らに置いた。マーここまでは当然の行為であろう。そして用が終えた時、立ち上がりフラッシュした時、傍らに置いていた手袋と帽子が滑り落ち、便器の中に吸い込まれた。あわてて拾った佐野さん、その後、トイレの手洗い場で洗濯して、ドライヤーで乾かしていたという。

かくしてリフトに乗った私は左には酒臭い原ちゃん、右には・・・・臭い佐野さんに挟まれることとなった。佐野さんはウンチ臭かった訳でないけど、気分的にね。

 

午後から原ちゃんはミッチー親子の車で帰宅の徒につくため、挨拶をして佐野さんとマッコイに移動して何本か滑る。

今日はスタンピアレーの駐車所で斉藤さん、沼ちゃんのコンビが自炊をしているはずなので昼休みに行って見ると一番良い場所に停めた斉藤さんの車でカップ麺を調理していた。私もおにぎりを一ついただく。年々高くなるふざけたスキー場のレストラン、こうした自衛手段を講じて抵抗するしかない。我々も極力昼飯は持込である。マッコイで会った日本人の家族づれもリフト代 (79ドル)と食事の高さに驚いていた。しかしユーロー高のヨーロッパは4人でラーメンを食べたら100ドル以上したという、恐ろしい話を聞いた。そのヨーロッパに来月は行く。

      
午後からは雲ひとつない晴天            ただいま5分間待つのだよ中

今日から佐野さんと私だけになったシャモニーのコンドに斉藤さん、沼ちゃんを夕食に招待する。

最初の3日間は長丁場になのにハイペース過ぎている。今日の後半はかなり私も足に来ていた。明日はクリスマス、すこしペースを落とすことにする。

雪に囲まれた聖なる夜。この白い雪は、雪国で生まれ、スキーを愛する私にとり何なのであろう。思えば子供のころ雪には二通りしかなかった。冷たく吹き荒れる雪と、青空の下で光り輝く雪、同じ雪がどうしてこんなに違う顔を見せるのか?今、どちらの雪も私には神がくれた自然の贈り物、聖雪に他ならない。クリスマスソングが聞こえる。

 

第一部  完