黄葉の中で            10月29日2011年           小堺 高志

 

久しぶりのエッセイです。皆さんいかがお過ごしでしょう。

天変地異が続いている。でもこれは今年だけの事ではなく、これからは毎年 当たり前に未曾有の自然現象が繰り返され、人類はさらに厳しい状況に遭遇するものと思わなければならない。

地震、津波、洪水、火山と自然の脅威の前で人間はいかに無力であることか。危うい自然界の中でわずか400年の平安な時期にたまたま人間の躍進の歴史があったに過ぎない。1たび自然界が暴れだしたら忽ち大災害になる。すでに定員オーバーの地球で世界人口が70億を突破した今、安全を保障されている訳でないことを改めて知り、備えるべき時なのだと思う。 

 

さて、以下はスキーエッセイの季節前の番外編です。

 

われらのスキー仲間菊池の伸ちゃんが11月半ばについに結婚する。結婚式は日本で行われ、佐野さんがアメリカ住在の友人代表として式に出席する。

 

そこでスキーシーズンまで後3週間位であるが黄葉の中でバチェラーパーティーをしようという事になった。バチェラーパーティーとは結婚前に行われる独身最後の男友達で開くドンチャン騒ぎであり、アメリカではストリッパーを呼んだとかと良く物議を醸すパーティーである。しかしここまでは独身時代の出来事として無礼講で花嫁も問い詰めないのがアメリカの風習のようである。

と、こんな事を書くと花嫁が心配するかもしれないが、常識人の我々のことであるから、宴会をするくらいであり、異性の乱入があるとしてもマンモスのメス熊くらいであろう。

 

闇夜の星空の下を斉藤さん、佐野さんとマンモスに向かう。

佐野さんは前回マンモスに行ってシャモニー(マンモスのコンド)の鍵を忘れて来たという。大体、年に2回くらい自分の家の鍵も忘れてくる人である。人事ではない、私も忘れ物には気をつけなければ。

私は昨夜遅くまでハリウッドのコダックシアターで行なわれているソーク・デ・ソレイユのサーカスを観に行っていたので寝不足である。

モハベで早々に斉藤さんに運転を代わってもらい、後の席でうたた寝をさせていただく。

 

マンモスへの到着は夜中の12時を回っていた。今回の主役である伸ちゃんはすでに1時間ほど前に我々より遠いエル・セントロから着いてビールを飲みながら待っていた。このバチェラーパーティーのもうひとつの裏の趣旨は伸ちゃんを肥えさせてタクシードを着れなくすることであり、いっぱい食べて飲んで太って帰ってもらいましょう。

 

さっそくワインを開けて乾杯する。

明日は黄葉を観に去年も行ったパークレークへ行く予定である。軽いハイキング気分でいける距離であり、あまり人が居ないのが良い。駐車場から往復で約5キロ、山歩きと言うより散歩感覚である。

登山には物足りない距離であるから、佐野さん伸ちゃんは明日は訓練で駆け足登山をするとか、荷物に石を入れて歩くだとか、言うだけは威勢いがいい。



まずはビールの伸ちゃんと斉藤さん、明日に向けて威勢のいい佐野さん
 

翌朝、目覚めると斉藤さんが朝飯を用意してくれている。朝から鮭を焼いて、自家製の納豆とお味噌汁。朝食後今日の予定を実行するべく出発の用意をはじめる。テーマは『黄葉の中で温かいつまみを突っつきながらワインを飲む』である。

 

11時前に伸ちゃんの車でシャモニーを出発してパークレークへと向かう。マンモスの姉妹スキー場であるジューンレークのスキー場を左手に見て進む。この辺の黄葉は今が見どころ、シルバーレークを通り越し、モロレークを下に見ながら山に向かう。周りの山の上部は2週間前に降った雪ですでに白くなっている。


やはりどこに行っても一番美味しいのは日本食です、朝から料理をして、ビデオをまわす忙しい斉藤さん


シルバーレークの黄葉


白樺の黄葉と、岩山の中央に見える白い部分は滝です

狭い駐車場にはすでに9台ほど車が止まっていて、駐車スペースが無い。手前の道路の路肩に車を止めるために斉藤さんと20キロほどの石を動かして駐車スペースを作る。そういえばこのくらいの石を伸ちゃんに背負わせなければ。私に言わせれば結婚は重き石を背負って歩くが如しである。いや、結婚に否定的な意味ではなく、自分だけでなく伴侶の人生の責任をも重く負わなければならない覚悟が必要だという意味である。

せっかく駐車スペースを作ったのにちょうど帰る人がいて駐車場に車を止めることが出来た。

 

それぞれが受け持ちの荷物を持って秋の気配のトレールを往く。

左右に黄葉を見ながらなだらかな山道を進むが、黄葉は場所によっては少し遅い。でもまだ黄葉の美しさを楽しめる範囲内である。佐野さんは夕べ確か私の2倍のスピードで駆け上ると言っていたと思うがなかなかスタートダッシュする気配が無い。





清流に沿って黄葉を見ながらのパークレークへの道 

1時間半ほどなだらかな道を小川沿いに歩いて湖に着く。

斉藤さんはシャモニーを出た時から最近買ったビデオカメラを回し続け、一人でカメラに向かって解説をしている。ちょっと離れたら一人ごとを言いながら歩く危ないオジサンである。

倒木を使い湖から流れ出す川の対岸に渡り、湖岸を歩きながら今日のパーティーの場所探し。「こんなもんでしょう」と決めた場所は湖のすぐ横、座れそうな場所とクッキングテーブルに使えそうな手ごろな大きさの石がある場所である。



パークレーク。    倒木を伝って対岸へ。     ワインを冷やす斉藤さん
 

早速、携帯コンロを出し、火をつける。ビールを飲みながら持ってきた鶏肉の香料焼きをあたためる。仕上げにバターと醤油をたらすのがみそである。さらにマンモスに来る前に3日かけて作ってきた豚の角煮を暖める。伸ちゃんが一本目のワインを開けて皆に注いでくれる。

伸ちゃん結婚おめでとう。乾杯。

 

美しい自然を見ながら屋外で飲む酒は旨い。しかも今回は温かい料理付きであるから贅沢なものである。



今日の宴会の場所、ワインで乾杯、3日間かけてとろとろに煮込んできた豚の角煮




宴もたけなわ、ほろ酔いの私と、今日の主役伸ちゃん
 

2本目のワインも空き、さらに湖の一番奥にある黄葉のところまで歩いてみることにする。奥に進むにつれ段々道らしい道が無くなってくる。結婚は道なき道を行くが如し。あ、また否定的に取られると困ります。二人で道をつけて行ってください。

 

佐野さんがきれいな石を拾ったので、「友情の証にこれを持って帰って」とその石を菊池さんに渡すと一秒も持たずに投げ捨ててしまった。そうかい、気持ち的にはあの駐車所にある20キロの石を結婚祝いの友情の証としてあげるので日本まで持って帰って欲しいのであるが友情とは石よりも軽いらしい。


対岸へ遠征



山には10日ほど前に降った雪が見える



釣りをする佐野さん、成果はなし
 

さて帰る時間である。山男はすべてのゴミを持って帰らなければならない。お腹は重くなり、その分だいぶ荷物は軽くなっている。その帰り道でまた倒木を使って川を渡らなければならない。私メ、その倒木の橋の中央で良い気分で酔っていたせいか、足を取られて前のめりに倒れてしまった。水深は20cm位のものであるからたいしたことは無いが、それでも右足と右手が手首足首が30cmくらいズッポシと水に浸かって濡れてしまった。ビデオをずっと撮っていた斉藤さん、その決定的な瞬間だけ取れずに佐野さんと悔しがることしきり。



空き瓶を背負って帰る宴の後,     私が水浴をした倒木の橋

小川に沿って駐車場に戻る道

帰り道もビデオを回す斉藤翁。我々とすれ違い、これから湖に向かう親子

眼下にモロレークが見えてくる。ちっと濡れたけど、無事に帰還、お疲れ様でした
 

コンドに戻ると斉藤さんが夕食の用意にかかる。今回 私はおつまみ係で、斉藤さんが夕飯の用意を買って出てくれているので甘えることにする。

斉藤さんは相変わらず手間のかかった丁寧な料理を作っている。

鶏肉のオリジナルソースかけがメインで、スパゲティーのサラダ、ソーセージから出汁をとってじっくりと煮込んだ野菜スープ。

美味しゅうございました。ご馳走様でした。食事の後、斉藤さんが今日撮ったビデオを見せてもらう駄洒落いっぱいの解説がなかなか面白い。



手抜きの無い斉藤シェフのディナーコース斉藤さんの結婚しない理由が判るようです。美味しゅうございました。
 

翌朝、斉藤さんが朝から餃子をつくっている。午前中は特に予定も無く遅い朝食なのでランチと一緒のブランチである。

夕べの残りが大量にある上に餃子が大皿に二つ。食料を残さないように食べるには相当な量がある。目いっぱい食べて、ワインもまだ残っているので昼から4人でワインを一本開ける。

伸ちゃん、来た時より幾分膨らんでいるような気がする。目的は達成出来たようである。

 

しばらく会えない伸ちゃんと別れ、シャモニーを昼ごろ出発。

途中のロンパインで私だけまだ寄ったことのないビジターセンターからのアメリカ本土の最高峰、マウントウイットニーの眺めがすごいという話を二人がするので、この機会に寄ってみたいと車を運転する私が言う。

 

やがてそれらしい建物がみえたので、「あれですか?」と問う私に素っ気無く「違う!」と言い放つ助手席の斉藤さん。でも通り越してすぐに「あ、あれでした」

まったく、信用した私が悪かった。おかげで今回もビジターセンターに寄り損ねました。

 

いつものコホージャンクションのガソリンスタンドでトイレ休み。アイスクリームを食べながら一休みしていると斉藤さんが突然「あ、白頭鷲!」と言うので見れば、頭部が白い黒い鳥が頭の上を飛んでいく。でもふた回り小さいような気がする。それもアメリカ国鳥である白頭鷲がこんなところに居るはずがない。

良く見れば、何のことはない、白い物を咥えたカラスでした。

斉藤さんにまた騙されるとこでした。皆さん斉藤さんには気をつけましょう。


黄葉の中を都会へ向かう。斉藤さんが見つけた白頭カラス

 

その斉藤さんは今期を最後に来年の春スキーシーズンが終ったころ日本に引き上げる。斉藤さんが居なくなると静かになるが寂しくもなる。私の突っ込みを絶妙に受け流して答えてくれる存在であり、ボケ役の貴重な人である。これは漫才で言う賢くなければ勤まらないボケ役のことであり、褒め言葉です。駄洒落を除けば。常識と博学をそなえた人格者でもあります。

 

今期は斉藤さん参加の最後のスキーシーズン、楽しまなければ。

サンタモニカで佐野さんを降ろす。マンモスの鍵あり、家の鍵あり、荷物全部もちましたか?忘れ物なし。それじゃあ、日本から帰ったらまた。

 

トーレンスに帰って斉藤さんの荷物を積み替える。ひとつ持ち主不明の袋が残る。

やっぱり最後は真打佐野さんが落ちを付けてくれます。佐野さんの登山靴でした。

ハハハ!

改めて、伸ちゃん結婚おめでとう。
今シーズンも楽しいスキーが出来ますように。