10−24−01
スキー・シーズンを前にトレーニングを兼ねて紅葉を見にマンモスに山歩きに行ってきた。
私がスキー以外を主な目的にマンモスに行く事は珍しいことである。直前に頼さんが行けなくなったので佐野さんと二人だけのマンモス行きである。スキー場を見てみるが雪を抱かない禿山のようなマンモスを見るのは始めてのように思う。来月11月8日がマンモスのスキー場開きと宣伝しているのに、残す所20日間くらい、未だに雪を作っている気配もなく、オープニングに間に合うのであろうかと心配になる。
今回の山歩きは佐野さん任せで、正直何処に連れていかれるのか分からない。「レーク・ランディーから入って、6月に行った事があるサドル・バックに抜けるトレールを踏破して、またレーク・ランディーに戻るコースだ」と大雑把な説明をうけるが、ピンとこない。マンモスはまだまだ私の知らない美しい自然を方々に持っているが、スキーで行く所以外では地名を言われても私の頭には空白の地図しかなく何処が何処なのか分からないのである。それでもレーク・ランディーまでは行った事があるのでわかる。レーク・ランディーはマンモスの北方にあり、395号線をレーク・タホ方面に30分ほど走り、西方向に山に入り、突き当たりにある湖で、その一番奥のパーキングから、谷沿いに山に入っていくことになる。そこから先のトレールは私にとって未体験ゾーンである。
この時期、山の所々に鮮やかに萌えるようなオレンジ色の紅葉が見られる。ここ北米西海岸の紅葉はどちらかと言うと黄色がメインの黄葉であり、日本の美しい紅葉と比べるとちょっと物足りない気もする。山全体が黄葉するのではなく、山の一部、広葉樹林のある部分だけに、ペンキをこぼした様に鮮やかな山吹色が現れるので、それはそれで地味な他の部分と対照して、鮮明であり感動的でもある。
歩き始めは登山道も広く若干の起伏があるが、わりと平坦な地形で、ポプラ系の黄葉が所々現れる谷を余裕を持って進む。佐野さんはこのルートを行くのは二回目、片道2時間くらいのピクニックだと言われて来た。進むにつれ、この谷を囲む様に、行く先をさえぎる急な尾根がみえる。まさかあの急勾配は登れないだろう。ここからランディー・パスという峠を越えてこの谷の上に抜けたところが、前回サドル・バックから入った所であり、今回の最終目的地であるそうだが何処の部分が峠越えをする地点なのか、峠というより目の前の山は屏風のようにみえるのである。
今回の登山隊長である佐野さんは私の前をどんどん先に行く、2週間前、彼は原ちゃんとコットンウッドのトレールを行き、原ちゃんを2時間後方に置いていったという薄情な話しが伝わっている。しかし佐野さんは「あれは原ちゃんからあった山歩きの話しだから、原ちゃんが登山隊長であった」と言い張るのである。そうであれば登山隊長原ちゃんは隊員に2時間置いて行かれた情けない登山隊長ということになるが、いずれにせよ成るべく佐野さんに離されない様に付いて行く。
振り向けば谷を覆うように黄葉した林が遥か向うのランディ湖まで続いている。気温も寒くなく谷を駈ける風が気持ち良い。やがて林が切れ、谷の奥で登山道はスイッチバックの道となり上へ上へと登る急坂となる。遠くから見て「あの斜面は登れないだろう」と思っていた地形が目の前にある。どうやらここがランディー・パスとよばれる峠であるらしい。腕時計の高度計は先ほどの湖の2530メートルから150メートルくらいしか上がっていない。ここまで約一時間、今日はピクニックと聞いていたがここからは本格的な登山以外のなにものでもない。
一番急な所では、手も使って急勾配の斜面を這う様に登るが、なかなか高度をかせげない。登頂をめざす登山家が後100メートルで登頂をあきめるというが現実味ある話しと思える。こんなに厳しい登山をするつもりはなかたのに、またしても佐野さんの甘い山への誘いに騙されたようである。しかし佐野さんも「こんなに急だったかなー」と無責任な事をいっている。元ヒマラヤ登山隊の頼さんが一緒だといろいろアドバイスや初心者を気遣ってくれくので安心なのだが、今日の隊長はちょっと心もとない。でも佐野さんも高校では山岳部に籍をおき、かなりの登山経験があり、それなりに気を使ってくれてはいるようである。ともかく大幅に遅れない様がんばるが、なかなか足は先に進まない。
前を行く佐野さんの姿は見えないが、声は聞こえるのでそんなに遅れてはいないようである。足元は硬い岩石が砕かれた状態のガレ場である。よく整備され歩き難くはないが所々足場が不安定なところがある。右手は急な絶壁となり滝が流れている。左手はそんなに急ではないが細かいガレ場であり、歩けそうもない。「冬場で雪があったらスキーでこの峠も10分で下りられるのにな」などと思いながら、休み休み登り続ける事1時間半、急に傾斜が緩やかになり目の前に草原と佐野さんの姿が見える。身体はもうここが最終地点で良いだろうといっているのだが、この先をさらにあまり急でない道を300メートルほど登ったところが峠の最高地点であるらしい。ここまで来たのだからと身体に鞭打って登るとそこには見覚えのある湖があった。これで6月に来た地点とつながった。高度計は2985メートルを示している。
湖で手を洗い昼飯のサンドイッチを食べると、風も水も半年ぶりに感じる冷たさである。ここでは冬はもうすぐそこまで来ている様だ。
急斜面を足を滑らせないように気をつけながら元来た道をもどる。下りの方が体重の移動が調節できないためか、足に負担がかかるように感じる。普段使わない筋肉が痛くなってくる。谷へ下りると、来る時には我々しかいなかったのに黄葉を見るハイカーと釣り人が15人ほどいてそれぞれ自然を楽しんでいる。我々のように峠越えをしようという人はあまりいないようである。さらに下り、ランディー湖の上の湖に近くなって写真を撮っていたら佐野さんを見失ってしまった。追いつこうと急ぐうちに出発地点の駐車場に着いてしまった。どうやら佐野さんは湖の方に下りて魚でも見ているようで追い越してしまったようだ。
パーキングのすぐ横の黄葉した林の中にピクニック用のテーブルと椅子がある。これ幸いと車から冷えたビールを取り出し、飲みながら佐野さんを待つ。すぐ横を流れる小川に下りてみると、3メートル位の流れを横切る様に倒木が横たわっている、その倒木に座りビールを飲む。秋晴れの青空を背景に黄葉がきらきらと光ながら水面に舞い落ち、足元を黄葉をたくさん浮かべた清流が流れる。秋風の突風が頭上の林を抜け、黄葉のシャワーが頭に降り注ぐ。この黄葉がすべて落ち葉になった頃スキーシーズンが始まろうとしている。
終わり