BAR・イナイナイバー           2011623日   小堺 高志

6月の半ばを過ぎて、今年はまだマンモスで滑られる。一ヶ月ぶりでマンモスに向かう。

久しぶりに会った斉藤さんとサンタモニカの佐野さんをピックアップに向かう。エルエー空港の裏側を通ると「完成していなくてもカンセイ(管制)塔」と早速駄洒落の斉藤さん。

7時にサンタモニカを発つといつに無く道路は空いている。

佐野さんが「この静かさは、何かあるぞ」などと不気味なことを言う。

 

日が長くなり、8時半、モハベを通過している時に大きな夕日が沈む。いつもは2時間はかかるところ、ここまで1時間半で来てしまった。給油して運転を斉藤さんに代わってもらう。その後も道路は空いていて順調すぎるドライブである。

満月に近いお月様が山間から顔をだす。

 

ロンパインの手前で、突然後ろでちかちかとパトカーのライトが点滅する。

路肩に車を寄せると警官が来て免許証と保険の提示を求められる。助手席の私が警官に書類を渡し、何マイルのスピードオ−バーか聞くと21マイルのオーバーだと言う。斉藤さんにとってはかなり久しぶりのチケットだそうだが、いくら仏の斉藤さんであってもりっぱなスピード違反であるから許してくれるはずも無く、これはしょうがない。

 

ビショップの手前、新しく改造された休憩所でしばらく休む。虫の音が聞こえ、小川のせせらぎがある。なかなか良い休憩所である。

ここからは、私が運転を代わる。この調子では12時前にマンモスのコンドに着きそうである。今週は仕事の忙しさと寝不足で結構疲れている。



交通違反のチケットを切られた斉藤さんとオアシスのような休憩場で虫の音色とせせらぎの音に慰められる。
 

フリーウエイを降りてマンモスの街中を運転していると、またしても後ろに先ほど見たばかりのパトカーの点滅。「嘘だろう!」「スピード違反?」身に覚えの無い停止命令。路肩に車を停めると若い警官が来て言う。「少し蛇行運転をしていたので、停めましたが、お酒は飲んでいませんか?」幸いにも今日は一滴も飲んでいない。

 

簡単な検査をされて、身の潔白が証明され違反チケットを切られることもなく無罪釈放。すっかりまた交通違反チケットを切られるかと、いろんなことを想像してしまった。運転手が代わっても、一晩に違反チケットを二枚もらったのでは洒落にならない。とりあえず良かったが、まったく今日は佐野さんの予感通り、くわばらくわばらである。

 

12時にシャモニーのコンドに着いた。

『イナイイナイバー』なる怪しげなマスターのいる場末のバーという設定でカウンターの止まり木に座って斉藤マスターがドリンクといろんなおつまみを出してくれる。やがてもう一人の常連客伸ちゃんも来店。カクテル、ビール、ワインにおつまみ。時代は昭和50年ごろの設定か。佐野さんにマスターが言う「お客さん、ずいぶん付けが溜まっていますが、早く払ってくださいよ」「すまないね、マスター、ボーナス入ったら払うから」マスターの駄洒落を聞きながら、午前2時半くらいまで、つい長居をしてしまった。



Bar,いないない・バーの斉藤マスターと常連客たち。ついつい長居をして飲みすぎてしまった。
 

目が覚めたのは8時近くであった。

いい天気で暖かい。簡単な朝食を摂ってスキー場に向かう。今の季節にまだオープンしているスキー場はアメリカでもここだけだと思う。スタンピーのリフト乗り場のすぐ前に駐車出来た。駐車場から見るゲレンデはまだ驚くほどの雪に覆われている。

 

一ヶ月ぶりのスキーである。運動不足である。寝不足である。

しかし、滑り始めると面白い。2本目のリフトラインで連絡をもらっていた羽鳥さんと会う。伸ちゃんはTシャツで滑っている。空気が暖かくゲレンデには肌を露出した女性の姿もみえる。



ゲレンデの目の前に車を停めれた。まだ沢山の雪がある。半袖ですべる伸ちゃんと、今回絶好調の佐野さん。

 

ゴンドラで山頂にいく。前回より1メートルほど雪が溶けてはいるが、今月に入ってからも15cmほど降っているし、まだ10メートルのポールが上を1メートル半ほど出して埋まっている。





まだ9メートル近い雪がある標高3,370メートルの山頂。

ウエストボールのモーグルコースの雪がいい具合に柔らかくなっている。久しぶりのモーグルに挑戦。いい感じで滑れるが、やはりモーグルは相当にきつい運動量である。大きく波打つ瘤の連続で瘤を越えるたびに下から突き上げるようなショックを吸収しなければならず、息つく間もない。滑っている間は息を止めているのかと思うほどきつく、停まると心臓がバクバクしている。

 

予想外に佐野さん、今回は元気にモーグルコースを滑っている。しかし全員、結構いい感じで滑れても、途中で最低3−4回は止まって呼吸を整えないとコースを完走できない。それぞれがゼイゼイいいながらも頑張るおじさん達である。



ウエストボールの瘤斜面。   これは知らないモーグラー途中でバタバタしているのは知ってるモーグラー。

休憩してビールを飲みながら楽しい時間を過ごす。

斉藤さんの日焼け止めはなぜか塗ったところが白くなる。花魁、潮吹き昆布、白くなった干し柿、などとイジリがいのある顔をしているので困るのである。


ミルカフェでBARイナイナイバーを堂々とオープン。ま、こんなもんでしょう。
 

1時半に上がって、ジャグジーに行ってみると今日も他の客がいなくて完全独占状態。プールが泳げるようになっていたので、年甲斐も無く皆さん潜水に挑戦、やはり一番若い伸ちゃんが往復に成功して勝った。皆さん無理しちゃ、駄目だよ。

 

夕食のメインは佐野さんにリクエストされていたハンバーグステーキ。それ以外はいろいろ斉藤マスターが作ってくれた。

 

前回一緒に滑った羽鳥さんの息子、士朗君は夏休みの今、日本の被災地宮城県の石巻にシアトルの友達とともにボランテア活動に行っている。日本の各地から来た若者たちと現地の復興のための活動をしている。今は津波による塩害を受けた農家の復旧の手助けをしているそうだ。お風呂も無いプレハブ小屋に雑魚寝をしながら、たまに行く温泉が楽しみだという。

 

ボランテアの助けを必要としている人たちはまだまだ大勢いる。そんな若者たちが復興の原動力になっている。彼らのような若者達がいるから日本は絶対に復興する。士朗君もきっと生涯にのこる貴重な経験をして戻ってくることだろう。

 

頑張れ日本、頑張れ若人!





片道20メートルくらいか?いい歳のおじさんたちが潜水をしている姿は河童頭と海坊主頭
 

日曜日、今日も晴天なり。朝ごはんを食べて夕方までにエルエーに戻らなければならない羽鳥さんが先にでる。

30分遅れで我々もげれんでに向かい、今日もスタンピーから入ると雪はすでに柔らかい。朝の一本目はスタンピー、と先頭を切って滑り出し、後ろを見たら裏切り者が付いてこない。一本目からはぐれてしまったではないか。しょうがなく一人で滑っていると羽鳥さんを見つけて一緒に滑る。しばらくして3人を見付けて合流。






今日もモーグルに挑戦。呼吸に気をつけて滑ると昨日より楽に滑れる。今日はコースの半分くらいまで一気に滑って私としては最長不倒距離を打ち立てた。しかし、やっぱり3−4本も滑ればくたくたになるのである。我々の歳でこの瘤斜面を滑るスキーヤーはまずいないと思う。スタンピーの下の方はかなり雪が柔らかくなって来ている。柔らかく荒れた雪を乗り越えて滑る感じは、それはそれで嫌いではない。


凶暴にえぐれたバンプ(瘤)斜面
 

羽鳥さんが10時ごろにあがり、そのまま帰路に付く。佐野さん、菊池さんが10時半ごろあがって、スタンピーの乗り場近くのミルカフェで待つと言うので斉藤さんとさらに3本ほど滑り、もう一本とリフトラインに並ぼうとしたら、駐車場に佐野さんが現れ、我々があがるのを待っている、無言の圧力を感じ「上がりますか?」と斉藤さんと同意。

 

キャニオンロッジに戻って斉藤さんが豪華な昼食を作ってくれる。硬焼きそば、サラダに、スープ、運転のある私以外はワインまで飲んでいる。昨日作ったマルガリータが凍ってシャーベット状になっている。それを食べて斉藤さん、「頭いてえー」ええかげんにしてください。


昼食の硬焼きそば、車に荷物を積み終えて出発、マンモスの街中、車の中の佐野さん。
 

例年ならもうスキーシーズンも終わりであるが、まだ2週間マンモスのスキー場は開いている。我々はもう一回、7月の独立記念日の連休に来るつもりでいる。

 

暦の上では21日から夏である。帰り道、もう気候も、風景も夏である。太陽に照らされた緑がまぶしい。

 

 

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