星降る夜      2006年7月2日

 

ルート395の道路から少し離れた闇の中に車を停め、外に出ると頭上には空一杯に天の川が流れていた。先ほどまでの熱い空気も和み、満天の星空は黒い布の上に撒いた宝石のようである。

料理用に車に積んでいた紹興酒を一口飲む。星空を見上げながらの中国3000年の味が口の中に広がる。天の川に星が流れた。最高のシュチュエーションで飲む酒、至福のひと時、これがまた乙なものである。

 

月の出ていない夜、星の輝きが一段と増したそのとき、200メートルほど先の地上に不思議な光りを見た。そこは人里離れた草原であるはずであるが、ちょうど懐中電灯くらいの明るさの光源が動いている。しかし人が持つ懐中電灯であれば若干明暗の変化があるはずであるが、この二等星くらいの明るさの光は一定の強さで、蛍の光のようにゆっくりと前後左右に動いている。こんな動きをする光源を知らない。大体が夜中の11時、人がいるはずのない場所と時間である。この地上の2等星の正体は何なのか?ひょっとして地上に落ちて帰り道を探している流れ星か? そんな思いを抱かせる夏の星空である。佐野さんも気づいて「調べに行く?」と聞いてきたが、宇宙人に遭遇したくないので、聞かなかったことにして発車するのであった。

 

これが6月最後の週末で、8ヵ月に亘った長いスキーシーズンもまもなく終わろうとしている。南カリフォルニアはすでに夏であるが、今月になって2度目のマンモス行きである。この時期まだ開いている国内のスキー場はマンモスマウンテンとオレゴンのマウントバチェラーだけである。マンモスは祝日の独立記念日である74日をもってシーズン終了で閉場となる。

 

土曜日、4時半に起きて釣りに行くと言っていた佐野さんが起きて来ない。時間はもう5時10分前。佐野さんと原ちゃんを起こして30分ほど離れた釣り場であるレーククロゥリーに向かう。このところ我々の釣りは空振りが続いている。今回私は釣りをせず見学である。時間をかけて結果的に釣りの成果が無ければ見学が一番正解であろう。車を水際一杯に停めると車の窓からは前方一面に水面が広がり、ボートに乗っているような錯覚を覚える。

  

  

 

今年は雪が多かったので水量が多い。単純に水量が倍になれば魚影は半分になる。のみならずブッシュ大統領の所為と我々は言っているが、予算が減って魚の放流量も減らされていると聞く。魚影が薄くなれば当然、魚が餌に食いつくチャンスも減ってくる。

最近のニュースで日本ではこのところの原油の高騰で漁に出られない漁船が漁港に多く停泊しているという。出漁しても取れる魚の量も少なく燃料代に追いつかないと言うことであるが、今季の佐野さん原ちゃんの釣りもそろそろ、その域である。車のガス代がもったいないから釣りも止めたらと、嫌味な一言。漁師だったら廃業である。

 

早朝の釣りの後は9時からスキー場に繰り出しスキーの時間である。今はメインロッジからのリフトとゴンドラ、そしてフェスの3番リフトしか動いていない。それでもゴンドラで山頂までいけるし、結構雪は残っている。朝から雪は緩んでいてウエストボールのバンプ斜面は大きな深い凸凹があるがスローな雪でモーグルを滑るにはスピードを殺せて一番良い季節だと思う。今日も何人かのモグラーがこの斜面に集まっている。モーグルは滑り込むほどに上手くなると思うが季節の後半ともなれば調子の良いときには途中で1回の長めの休憩で斜面下まで降りられるようになっている。私は兎に角モーグルを滑られたら釣りはどうでも良い。二人が休んでいる間も滑り続けて、かなりリズムが取れて来た。

 

午後からはまた釣りの時間、宿のシャモニーから10分くらいの所、マンモスのスキー場の直ぐ裏にマンモスレークと総称される湖が5つある。朝行った草原の中にあるレーククロウリーと違い、ここの湖群はいずれも森と山に囲まれたすばらしい風景の湖で下からローワーツインレーク、アッパーツインレーク、レークメリー、レークマミーそしてレークジョージと呼ばれている。ツインレークまでの道路はここ2ヶ月くらい2週間ごとに来ているが、前回までは雪が道路を塞いで開いていなかったツインレークから上の道路がオープンしている。まずはレークマミーに車で上がると目の前にクリスタル クラックいう岩山が聳える。下を見ればツインレークとレークメリーが眼下に見える。そしてレークメリーに向かってこちらから水量たっぷりの滝が流れ落ちている。

  
クリスタル クラックをバックに                   レーク-ーメリーとツインレークを望む

 

湖の周辺にあるキャンプ場もオープンしていてキャンパーが大勢いる。釣り、トレッキング、サイクリング、昼寝、それぞれが思い思いのひと時を楽しんでいる。釣りのポイントを決めて釣り糸をたれる。我々はまずはビールで乾杯、今日のベスト一杯は絶景がビールの味を美味にするレークマミーの湖畔であった。

春を謳歌しているのは人間だけではない、傍らにフレンドリーなリスが現れ30cmくらいに近づいて写真を撮っても逃げない。つまみのピーナツをあげるが、ピーナツは彼にとって人間でいえばコッペッパン位の大きさになるのだが、直ぐに10個ほど食べてしまう。コペッパン10個は一瞬で何処に入ってしまったのであろうか?

湖の畔を散歩すると例年ならありえないほど水面が高く、湖畔の歩道が冠水していて先に進めない。しかし森の中を歩くのは気持ちが良い。日当たりの悪い対岸にはまだ残雪が沢山残っている。

今日はたっぷりと自然の美しさに触れたがまだ魚には触れていない。どうしたうちの漁師軍団!

  

 

    

 

翌朝は5時半に起きて再びレーククロゥーリーの魚群に挑戦に行く二人に付き合う。今日はグリーンバンクと言う今までと違う所にいくが、やはり引きがない。私は早くスキーに行きたいのだが、釣れなくてもしぶとく頑張る二人。815分、私の再三の催促に二人もついにあきらめて竿を納めてスキーに行くのかと思いきや、私をスキー場に降ろして、レークメリーに場所変えをして釣りを続けるという。

 

9時30分、私は一人でウェストボールの瘤斜面にいた。昨日からモーグルのリズムが良くなってきている。雪が柔らかくスピードが殺せて、それでいて深いパンプがあるこの時期に滑り込めば、モーグルの技術も格段と上達するだろう。しかし衝撃が腰と膝に来る事も確かで、まだまだスキーに対する気力体力は衰えていないつもりだが集中的に滑るには2時間が限度であろう。若いモーグラーが瘤斜面を攻めて飛ばしていく。彼らは若く、リーダー格の人がアドバイスをしながら滑っている。私が意識的にモーグルを滑るようになったのは15年ほど前からであろうか。モーグルだけをやる事はないので一日に瘤斜面を滑る機会は3-4回であろうか。それも我々はモーグル仕様のスキーを履いているわけでないし、体力的にはずいぶん昔ピークを越えている。我々の年齢でモーグルをしている人は多くはない。それでも毎年、少しずつ進歩があるから面白い。だんだんリズムが取れてきたのに、今日は私のシーズン最終日である。この感覚を来シーズンまで体に覚えさせる為、2時間この瘤斜面だけを滑り続けて、8ヶ月に亘った今季のスキーシーズンを終えた。

  
モーグラー                            初夏のマンモス マウンテン

振り返れば、今季は12月に胃液が上がるのを防ぐ手術を受け、2ヶ月間スキーが出来なかったが、その後滑走日を重ね、長いスキー期間に助けられ、シーズンが終わって見れば26日間と例年並に滑る事が出来た。

 

7月になった最初の週末、今日も佐野さんと原ちゃんは山に行っている。今回はスキーはしないで、釣りと山歩きが目的のようである。

朝フレンチの朝食を食べに外出した。外は雲ひとつない透明な夏の空が広がっていた。今日も暑くなりそうだ。

しばらくはスキーと離れての生活がはじまる。こうなると冬の雪雲が恋しくなる。

ビバ、スキー!私はやっぱりスキーが好き。