3・21・04
カナダから帰ってはじめてのマンモス行き、久しぶりの原ちゃんも加わり3人で金曜の夕方サンタモニカを出発する。
このところ暖かい日が続いており、マンモスの積雪も2週間で2フィート減ってしまった。こうなると朝のうちは夜間の冷え込みで硬く、昼くらいからゲレンデはスプリング・コンデションのぐちゃぐちゃ、べとべとの雪質となる。
一般的にこの状態の雪を嫌うスキーヤーが多いが、私はモーグルには良い季節だと思う。エッジが効き、スピードが殺せ、新雪にはかなわないまでもそれなりに雪の波乗りを楽しませてくれる。
ゲレンデに出て滑ってみると朝のうちはかなり場所によってコンデションに違いがある。昨夜のうちにグルームされたところはほとんどガリガリの硬い雪面であるが、朝方グルームされたと思われるところは結構滑りやすい。グルームとは硬くなった雪を雪上車で踏み砕いて、その後に付いた“鍬での親分“みたいなものを引きずって、均すことであるが、深くグルームしてくれたら結構パウダー状の雪ができる。しかしそれだけ手間がかかり、日中に融けてしまう雪も多くなるため、スキー場としては長くシーズンが続いて欲しいのでグルームは浅くしたいところであろう。スキーヤーとしては「もっと深く、しっかりグルームしろよ」ということになる。
雪はまだ十分にあるのだが、春先の季節的に雪質が悪いときはグルームの具合が朝のコンデションのすべてである。何処の斜面を選ぶかでスキーの楽しさも変わってくる。
朝一番で滑りながらコンデションの良いところを探していく。リフトナンバー8番から22番へ22番の裏から5番へ。5番からフェースリフトへと山にむかって右へ右へと移動して中間にあるマッコイステーションに行くと嘉藤さん(エッセイ・「スキー野郎」と「雪女」に登場)達と会った。今回も日帰りで朝3時にロスを出て来たと言う。午後3時には岐路に就くという強行軍で年間30日以上マンモスに通っている人達である。
嘉藤さんは長野のスキー一家に育った本格的スキーヤーで、指導員の資格を持っているので、時たま会えば一緒に滑り、適切なアドバイスをしてくれるありがたい存在である。今回彼らは4人で来ており、うち一人は顔見知りのマユミちゃん、といってもスキーヤーとしてのマユミちゃんはいつも顔がヘルメットやゴーグルで隠れているので今回初めて素敵な素顔を拝見した。いや、お化粧はしていたから素顔とは言わないかもしれないが、彼女は嘉藤組のマドンナであり、年間30日前後滑る上級者でもある。嘉藤さんが裏側の14番の雪質が良いというので休憩後23番リフトで山頂に上がり、裏側斜面に向かう。途中嘉藤さんの知り合いでジョンさんというかなり年配と思われるスキーヤーに会い、一緒に滑ることになる。山頂裏側の斜面は出だしはグルームされていない幾分荒れたザクザクの雪質であるが広くて気持ちよく滑れる斜面であった。下に下がるに従い柔らかく結構良い雪質になってきた。上手いスキーヤーが何人かまとまって滑るとなかなか壮観であり楽しい。私のデジカメはビデオ機能も付いているので先に下りてカメラを構える。ジョンが行き、嘉藤さん、佐野さん、マユミちゃんが行く。絵になった良い画面である。と、そこに しんがりを勤める原ちゃんがバランスを崩してオトット状態で画面に入ってきた。ここまでの良い画面が台無しである。おもわず「原ちゃん、減点!」と叫ぶ私。
原ちゃんは先日、山岳スキー用のスキーとスキー靴を買った。めちゃくちゃ軽くて歩くにはいいが安定感がなくショート・ターンにはすこしひっかかるときがあるようだ。
先頭の嘉藤さんを追うようにリフト乗り場に下りてもう一度14番リフトにのる。私が最後にリフトを下りて皆に追いつくと、一斜面をひとりずつ順番に滑べろうと並んでいる。ジョンが固い滑りをみせ、斜面の下に止まり合図を送ると次の人が滑り出す。マユミちゃん、原ちゃん、佐野さん、私、嘉藤さんとそれぞれが自由滑降をする。全員が揃うとそこからはまた一斉にショート・ターンで滑り出す。前の人を追い、横の人を牽制し、ラインを縫う、気分は戦闘機のパイロットの編隊飛行である。
屋外のカフェ、アウトポストで休みを取るともう加藤さんたちは帰る時間である。我々もキャニオン・ロッジへ向けて移動を開始する。8番リフトの下レッドウイングというコースにあまり急でないが良いコブ斜面が出来ている。個人的には今の季節こんな斜面が一番面白い。佐野さんが行く。私も下まで一気に下りる。面白い。
日曜日ゲレンデの状態は前日と同じようだ。また良さそうな斜面を探しながら西側へと移動する。アッパー・ドライクリークの瘤がならされている。瘤を取るために深く雪面を削っているであろうから、絶対に良い雪質だと読んだ私は「まー、騙されたと思って」と2人を誘う。アッパー・クリークのコースは谷になっている部分である。滑り始めると私の勘が当たっていたことが分かった。深くグルームされており、滑りやすく良い雪である。ここは途中が岩場にはさまれてゲレンデが狭くなるが、その部分で混むと結構、他のスキーヤーが邪魔になる。一度止まってコースが空くのを待つ。雪が良いと気分も良い。
今日一番の一本であった。
ゴンドラで山頂に行き、東側に尾根を行き、急斜面デイブス・ランを下りる。かなり急であるがエッジが効くので滑りやすい。そこから佐野さんが「だまされたつもりで9番に行こう」と言う。9番リフトの下は自然の林が残るあまり整備されていない幾分南むきの長い斜面で、いつも重く滑りにくい雪質のことが多い。
9番の斜面に向かう二人を追い越してそのまま私が先に9番を滑り降りる。斜面上部はかなり急で、先に進んだ私は途中で止まって二人を待つ。私の位置からはまだ急斜面の手前にいるはずの2人の姿は見えない。なかなか2人がこないので私も10分近く雪の上で休んでいるとやっと二人が下りてきた。何でも斜面手前で一服してビールを飲んでいたという。だまされたと思って9番へというのはこのことだったのか?実際だまされたようなものであるが、悪意はなかったであろう、私も雪上のパーティーに参加したかっただけである。
融けて軟らかくなった雪はけっこう扱い難く疲れるスキーである。アルコールの入った2人のには取り分けきついようで、かなりペースが遅い。そのままマンモスで一番西側にあるスキー場への入り口であるイーグル・ロッジにおりて休憩を取る。真っ青な空から太陽が、がんがんに照り付けている。汗だくのスキーであるから相当な速さで雪が融け続けていると思われる。真冬の寒さの中でするのも、夏のような暑さの中でするのも、これもまたスキー。飽きることのないスキーの面白さである。
ブラディー・マリーを一杯飲んだ我々はまたゲレンデへ向かう。
完