鳩ぽっぽ      file#00-4-18      

4週間ほど前、うちの二階のパテオにぶら下がったプランターに鳩が巣を造った。普段であれば家の廻りを汚されるのがいやなので早急にいやがらせをしてお引越し願うのであるが、今回は気づくのが遅すぎた。気づいた時には既に出産態勢に入っており。私も今にも生まれようかという妊婦を追い出すほど野暮ではない。今回はこのカップルの出産から子育てまで見守ることにした。この辺はカラスも多いし私の家のパテオは治安がいいと読んだこの鳩の夫婦の判断ははなかなか立派である。カラスも敷地内にははいってこないし、ガラス越しに見つめる我が家の二匹の猫は猫とは名ばかり,鳩の鳴き声さえ怖がる臆病者である。

やがて巣には小さな卵が2つ、鳩の夫婦は仲良く交代しながら卵を温めている。若い夫婦なのかお父さんは時折家のことはほっぽいて遊びに行ってしまう。そんな時、若妻はけなげに家を守るべく巣を離れず卵を温め続ける。 

2羽の雛がかえった。雛は鳴くものと思っていたが生まれた時から危険意識がしっかりしているのかほとんど鳴かない。鳴く雛は飼われた鳥の子で自然界で生き延びるには鳴いていては天敵に見つかってしまうということか。そういえば「キジも鳴かずば撃たれまい」と言う言葉があるように自然界は人間が思う以上に厳しいもの、おそらく鳩の子も2割くらいしか成鳥となって子孫を残す事は出来ないのであろう。

鳥の雛は毛が全身を覆ったらすぐに大きさとしては親鳥と同じく位の大きさになる。狭い巣の中で大きな二羽の雛を外気から守るためがんばっている母親の姿はちょっと滑稽でもあり、自然界からあたえられたDNAがさせている事と思うと、感動的でもある。人間のDNAは狂い始めているのか子供の躾をあきらめてしまった親が多い。

生まれて10日ほど経った先週の金曜日、家内が「鳩の両親が朝から帰ってこない」という。野良犬、カラス、などなど一歩外にでれば危険が一杯である。親の身になにかあったのでなければ良いがと様子を見るが親鳥の戻った気配はない。翌日、土曜日、スキーに行くことなくホームページ造りに励んでいた私はとうとう我慢できず、餌をあげようと試みることにした。餌はなにをあげたらいいのか、頭にはあのリズムが、「ぽっぽぽーハトぽっぽー、 ……..」当然思いついたのは豆、それも柔らかいビールのつまみの枝豆である。

枝豆を持った私はイスを持ち出しそーっと巣を覗きにいく。。そーっと、のはずがおもわぬ音が出る。私が頭を上げて覗きこんだ時にはすでに二羽とも向かいの松の枝に。雛の成長は思ったより早かった。お腹のすいた雛が口を開け、餌をねだる図を思い描いた私が愚かであった。なすすべもなく枝上の鳩を見上げる私。

里親になるはずが、押し込み強盗になってしまった心境。そのうち二羽も行方がわからなくなってしまった。

その夜、反省仕切りの私に家内の言葉が追い討ちをかける。「親に見放され、家をおわれた幼子が生き延びられるはずがない。」誠にごもっとも、私は孤児をおいだした悪徳家主です。

翌日朝、ドアを開けた私はうれしい光景をみた。音に驚いた二羽の小鳥が家の塀の中の植え込みから飛び立ったのである。さらに塀の上には親鳥の姿が。2日間、一家離散の悲劇かとおもわれた家族が元気にそろって暮らしている。我が家で生まれた鳩として、猫と家内と私とでガラス越しに暖かく見守った数週間であった。それからしばらく、この二羽の鳩兄弟はベランダの庭石の上で仲良く寄りそって暮らしていたが何処かに立派に巣立って行った。

来年もあの夫婦は我が家の軒下を借りにくるだろうか?きっと鳩に嫌がらせをして引越ししてもらっていた家主は、やさしい家主と変身していることだろう。

と、翌日、親鳩が同じ所で冗談でなく卵を温めている。えーー?勘弁してくれよ。