小堺 高志 2007年5月7日
今年は早くから雪不足が言われてきたが、スキーシーズンも残りわずかである。それでもマンモスは5月後半のメモリアル デーまでは開けるそうである。
4月最後の週末はフィッシングのオープニングデーでもある。釣り師、原ちゃんは釣りのシーズンになると燃える。ライセンスも買い揃え釣り竿を二組持ってマンモスに向う。私は今年のスキーシーズンが早く終わると釣りに来る機会も少なそうなので今回は釣りのライセンスを買うつもりは無い。
マンモスに着いたのは真夜中の12時を少し廻った頃。フィッシングのオープニングデーは日の出とともに解禁になるので例年なら朝早くから釣りに行き、その後スキーとなるのであるが、それから2時間近く起きていたので今回は
朝起きて素麺を食べた後、9時少し前にゲレンデに向う。外に出ると春の青空一杯の晴天である。先週末で歩いて行けるキャニオンロッジは閉まっているので、メインロッジの手前のスタンピーアレーに車で行ってリフトに乗る。夜間も暖かかったので、この時間からすでに雪面は適度に柔らかくなっている。まずは足慣らしにこのスタンピーを一本滑る。私は丁度1ヶ月ぶりのスキーであるが、このゲレンデはマンモスで一番の広さがあるので気持ちよく右へ左へと思い通りのコースを取れる。そしてゴールドラッシュから5番を滑る。綺麗にグルームされているので滑り易い。同じような雪質のつもりでアッパードライクリークへ行ったらグルームされていないし、まだ滑りこなされていない緩んだ雪で滑り難い。
春はモーグルの季節である。今回私はモーグルのために来ている。フェースリフトに乗ってリフトの上から見るとウェストボールの瘤斜面にはすでに何人かのモーグラーが集まっている。スキーシーズンが終わろうとしている今、私はまだモーグルの課題を抱えたままである。今季から履いているストックリーのスキーは速くて、瘤を攻めあぐねている。その課題とはスキーに遅れないように真上に乗ることと、次の瘤に高いポジションで入って行けるようにすることである。今季は1月初めから一ヵ月半、そして4月一杯と、ほとんど滑らない大きなブランクが2度あったので、体力的にも技術的にも昨シーズンの最後のレベルに達せないでいる。ウェストボールに入ってみると瘤が大きくて深い。25人ほどのモーグラーが前後しながら滑っている。何本か滑りながら試行錯誤しているうちに直ぐに午後1時になり、釣りに行く時間である。
私には久しぶりのゲレンデ ウエストボールを見る
余裕の佐野さんと私 大きくえぐれた瘤斜面
コンドに戻り着替えてクローリー湖へ行く。いつもと違うヒルトンというボートのローディング場のあるところに入るとオープニングデーだけ入場料として車一台8ドルを徴収される。私は今回釣りをするつもりはなく見学であるが、ライセンスは一人年間38ドルなのでこれはかなり釣らないと元が摂れない。マーケットで魚を買った方がはるかに安い。しかも最近、オープニングといえども、魚の放流に掛ける予算も減ってきているので昔のように入れ食いではない。
湖畔はキャンピングカーやボートを引いてきた車で埋まり、湖面には沢山のボートが浮かぶ。しかし午後のこの時間は、一番釣れない時間帯である。
太公望は何を思う キャンピングカーで一杯
翌朝、原ちゃんが5時ごろ起きたのでやる気満々でこの時間から釣りに行くのかと思ったら、パテオで一服すると、また寝てしまった。6時少し前に
美しいが日はすでに上がっている 釣りに来るのにこんなのあり?
昨日より空いているかと思ったらスタンピーの駐車場は一杯である。一度ゴンドラで山頂に上がってコーニスを一本滑ると、後はモーグル目的のスキーである。すでにシーズンは終わろうとしているのに昨シーズンの終わりの滑りがまだ出来ていない。思えば我々はモーグルをするには決定的な年齢と言うハンデーを抱えているのである。おそらく我々の年代でモーグルをしている人は今日のモーグラーの中にはいないはずである。一日に3-4本モーグルを滑るだけでは一冬経っても「去年並み」から進歩が無い。やはりもう一つ上に行くには休み休みでも一日中瘤斜面にいる日を2日間くらい続ける合宿をしなければならないと思う。そこで私は今日の残りの1時間半くらいをウェストボールで滑り続けることにした。
モーグルは瘤斜面を直線的に攻める競技的な滑りと、弧を描きながらスピードを制御して滑る滑りがあるが、究極のモーグルは直線的に膝の曲げ伸ばしで瘤を越えて行く滑りであろうが我々には限界がある。今はどうやってスピードを殺して滑るかである。
モーグルスキーヤーとしては年齢的にそろそろ後がない。来年はモーグルの合宿をするぞ!と思うのであった。
今シーズンも無事に終えたが、自然を相手にするスポーツは常に自然の前では謙虚でなければならない。自然はいつも優しい春の顔だけを見せてくれるとは限らない。
一月ほど前、ウインドサーフィンをする知り合いからメールがあった。彼女はかなりベテランのウインドサーファーである。大きな波を求めて一人仲間から離れて幾分沖に出てウインドサーフィンをしていた。何度目かのシャンプをした時右肩を強く打って、動けなくなり、海面で2時間ほど漂流した後、無事に生還したという内容であった。
寒さで段々と思考も体力も落ちていく中で風上と風下にボートを見つけ、彼女は最後の力を振り絞って海岸と反対に位置する風下の距離的には遠い方にいるボートに向って泳ぎ、6時ごろに暗くなる前に救助された。戻れたから言える「大変な経験」であるが、戻れなかったら誰もが「無謀な行為があったのかも」と思ったであろう。自然を相手にする野外活動は時にはその判断が命を救い、命を奪う。
泳いで向ったボートが動かずにいたなど、運が良かったのもあるであろうが、
彼女の永年の経験から、潮の流れ、強さ、自分に残された体力等から導き出した冷静な判断が彼女を救ったのだと思う。
スキーでも天候が悪く、知らない場所で「ここを行けば、、、、に出るだろう」と言う甘い判断で進み続けると後退不可能の事態に自分を導いてしまう可能性がある。スキーで怖いのは知らない地形に入り込み寒さで体力を奪われる事と新雪や春先の急斜面で起こる雪崩である。迷子になった時、私は事態が悪くなる前に来た方向に山登りをしてでも戻る。何しろ山登りをしたら一日掛かってしまう山をスキーでは10分で下りてしまうのだからスキーの場合迷子になることはまさに行きは良い良い帰りは怖いである。そして雪崩に関しては、雪質が危ない時はなるべく安全なコースを選び、常に相棒の位置を把握して滑るよう心掛けている。雪に飲まれたら身動きがとれず、自力で抜け出すのはほとんど不可能である。
「自然の前では、時には撤退する勇気が必要です」と先人は言うが、上級者になるほど最悪の事態になる前に忘れてはならない言葉だと思う。
帰り道、私の車が新しくなってから今回が始めての本格的遠出なのでドライブをするのも気持ちいい。しかし春のぽかぽか陽気に春眠暁を覚えず、朝釣りを見ながらひと眠りしたのに、又しても眠くなる。運転を代わってもらい、しばらく後部座席でうたた寝。この車にはサテライトラジオが付いているので、電波の入りの悪かったシェラネバダ山脈の陰でもラジオが245チャンネルも入る。野球の結果が気になる
南に下るに従い、若葉が芽生え、春の香りがしてきた。そしてその香りと供に来シーズンまで今年は長い6ヶ月間のオフシーズンが始まった。
完