ダンシング・オン・スノー    小堺高志     file#1-28-01

自然の恵み、雪の上のスポーツ・スキーは雪のコンデションに大きく左右される。私のコンピューターには毎日マンモス・スキー場からのスノー・レポートが届くが、とりわけスキー行きを予定している時は、その数日前から雪の状態が気になる。新雪があるか、風があるか、気温、天候は?それにより事前に、ある程度ゲレンデの状態を読む事が出来る。せっかく行くのであるから、より良い条件でスキーをしたいと言う思いは当然である。スキーをするための理想的なコンデションとは贅沢なことを言わせてもらえば、粉雪がたっぷりと降り積もって、翌朝、無風の快晴状態、そしてそこにいるスキーヤーは少ないほど良く、誰も荒らしてない、バージン・スノーに自分のシュプールを描けたら最高である。

そんな条件がすべて揃うのは、これほどスキー三昧をしている私でもなかなかめぐり合えないのである。前回1月12日のマンモス行きの時はマンモスからのメールは「3フィートの新雪、ゴーグルとシュノーケルを持参のこと」とか「風邪が流行っているから、ボスに風邪を引いたと嘘を言っても、週日にマンモスに来る価値あり」とかとあり、そんなスキーヤーの気持を弄ぶ言葉に誘われての、マンモス行であったが期待を裏切り、前回は雪が重く風で吹き固められ、3フィートの新雪は一日遅れで幻の新雪となったのであった。

今回は1月24,25,26日と毎日1フィート近い新雪が降り続け、週末の土日(27・28日)には天候が回復するだろうとの嬉しい予報。かなり理想に近い状態となりそうである。

相棒の佐野さんはつい1月22日にユタ州への3日間のスキー旅行から帰ったばかりであったが、この新雪の知らせにマンモス行きを強行する。26日金曜日の夕方、佐野さんをピックアップして雨の中、マンモスに向かう。ラジオではローカルの山では今夜降雪レベルが2500フィートまで下がる予定だという。しかし北上し砂漠地帯に入ると、雨は上がり、時たま雲間から星がみえる。今回はタイヤにチェーンを履かせる覚悟で来ているのだが、なかなか雪道にならない、結局雪がぱらつき始めたのはマンモスまであと40分という地点まで行ってからであった。だが雪は昼間は降っていなかったとみえ、道はきれいに除雪されており、チェーンを履く事無くマンモスの街中に入る。さすがに道路の両端にはかなりの雪がみられるが、そのまま常宿シャモニーに着く。雪は降り続けているが、あまり積もる降り方ではない。

翌27日、雪のぱらつく中、歩いてスキー場へ向かう、思ったとおりこの雪を待ちうけたスキーヤーで駐車場は既に一杯である。そんなに風は強くないのが、山の上の方は雲に隠れていてスキー場としては上部半分は開いていない。ほとんどのコースはグルームされているが、コースを一歩外れると3日間降り積もった新雪がいたる所に残っている。何処から滑り始めるか迷ってしまうが、まだあまり人に荒らされていない斜面を最優先で滑りたいのが本音であるから、知り尽くした斜面の中からドライ・クリークと呼ばれる、両側を岩に挟まれた谷を下りるコースを選ぶ。ここは元々狭い谷であるから吹き溜まりになり、普段からゲレンデは深い凸凹状態になっている。タイミングが悪かったのか、リフトを下りると、降ったり止んだりしている雪と、山から掛かって来たガスで視界が利かない。凸凹のあるコースで視界が利かない状態はスキーヤー泣かせである。スキーにならず、まったく面白くない。なんとか下りて、狙いをガスの掛かっていない下部のゲレンデであまり人の行かない林の中と、コースの端に残る新雪に絞る。あまり人の行きそうもないスキー場の一番北側に行くと、やはり同じ思いの新雪狙いのスキーヤー、スノーボーダーが既に集っている。林の中にはかなりの深雪があり、リフトの上から滑るコースを選ぶ、私はリフトの真下から滑り出す、滑り始めの部分は幾分固く吹き固められた雪であったが、やがて林の中に入るとスキーが軽い粉雪の上に浮いてくる。この感覚がたまらない、孫悟空のキン斗雲の乗り心地もかくや、、、雲に乗る事が出来たらこんな感じかと思わせるものが有る。何本か深雪を追って時の立つのを忘れて滑り、午後スキー場の南の方へ下りるコースを見ると、思い掛けなくマンモスで一番自然のままのゲレンデが残る9番リフトがオープンしている。そのまま9番リフトの乗り場まで下りて、リフトに乗って一望すると広大なゲレンデの方々にまだあまり荒らされていない雪があり、何処を滑るか迷ってしまう。私は一番南の外れにあるドラゴン・テールと呼ばれるダブル・ダイヤモンドのコースに目をつけた。リフトから見ると数人のスノーボーダーとスキーヤーが9番リフトの降り口から山腹を長いトラバスをして、ほとんど手付かずの斜面を楽しんでいる。そのままキャニオン・ロッジに滑り下りると言っていた佐野さんもこの雪質を見て私に付いて来る。急斜面を数百メートルに渡り斜めにトラバスすると雪は段々と深くなる、ここまで来ると9割が若いスノーボーダーである、当然我々は最年長者であろう。途中で佐野さんは私と別れ滑り下りる。私は最初の狙いどおり更に先へと進む、その先にはリフトから遥か遠くに見えた深い新雪があるはずである。何人か滑った跡はあるが近くには人は見えない。

すでに雪はトレールから外れると腰までの深さがある、ここまで来るのは私も初めてで、一番南の外れと思われる所から滑り出すが深い雪の下に何があるか分らない。いきなり胸まである吹き溜まりの雪に突っ込み転んで一回転してしまう、全身が雪に埋まり、胸に空気と一緒に粉雪が入ってくる、一瞬溺れそうである。本当にシュノーケルが要りそうであった。スキーは外れていないので、そのまま立ち上がればいいのだが、ストックは深い粉雪のなかでは突いても何処までも潜り、手を突いても同じく何処までも沈み込み、体を起こす役には立たない、立ちあがるためには体を丸めスキーの真上に体を持って行き、掴む物も支える物もなく、バランスだけで立ち上がらなければなかない。雪まみれになって時間を掛けて立ち上がって、慎重に滑り始める。今度は雪に乗れた、深い吹き溜まりがあるので充分なブロッキングをして吹き溜まりに突っ込む、雪が胸まであり、舞い上がった雪が顔面まで届くが今度は無事クリアー。吹き溜まり以外では雪に乗っていれば膝くらいまでの深さである。リズムに乗れば自分の後ろに出来るシュプールを思い浮かべながら滑れる余裕も出る、だがそんな斜面はすぐに終わり、さらにトラバスするか、そのまま下るかのチョイスを迫られる。前の人の滑った跡に従い、最短コースでそこから下る方を選ぶが、すぐに後悔する、目の前に樹林が現れた。下りるしかないが木と木の間が50センチ位しかないところが続くのでスキーにならない。樹海に迷い込んだようである。深い雪の中を木を避けながら進む、しばらくすると樹海の中で二人のスキーヤーに出会った。向こうも苦労している様子、「どうだい?」と声をかけると「俺達、金塊を探しているんだ」とジョークで余裕をかましてくれる。やがて、50メートルほどで林を抜け、無事に25番リフトで佐野さんと合流する事が出来た。

夜、雪も止み、空には凍りついたような三日月と宵の明星、金星が輝いていた。

翌28日、今日はフットボールのスーパー・ボールの日である。フットボール・フアン佐野さんの要望で午前11時には上がって、帰途に付かなければならない。朝8時15分のオープンから時間一杯まで滑り続けることにする。
外気は華氏0度、マイナス18℃であるが朝から無風、快晴である。今日のスキー場は全面オープン、昨日開いていなかった山頂も開いている。こんなコンデションはマンモス通いの永い我々にも数年に一度あるかないかのスキー日和である。ゴンドラで山頂に上がる。今日はやる気充分、スキーに3メートルほどのピンクの紐を縛り付ける。深雪の中でスキーが外れると、スキーが見つからないことがある、スキー場では毎年春になると何本かスキーが雪の中から現れるが、深雪に埋まったスキーは見つけ難い。結果的に今回は必要なかったが、この紐が雪面に出ていれば苦労なく掘り出す事が出来るという訳である。11時まであまり荒らされていない斜面を見つけ深雪を堪能するが、雪が良いと何処を滑っても気分が良い。あっという間に上がる時間となり、最後にモーグルをすべってキャニオン・ロッジに戻る。モーグルも新雪も滑るリズムを崩さない事が大切で、リズムにのると、雪の上でダンスをしている感覚で楽しく滑れる、雪質が良いせいでリズムが取り易く何時もより数段上手くなった様に感じる。

昼にマンモスを出て、4時半にはサンタモニカに着いていた。今回は雪に隠れた岩や木でかなりスキー板が傷ついたので、帰りにスキーを修理に出して帰宅する。
今シーズン14日目のスキーであった。