7月7日 小堺 高志
年間8ヶ月も滑られるスキー場がアラスカとかではなく常夏のイメージのあるカリフォルニアにあることを、知る人は少ないことだろう。ここはアラスカも入れてアメリカで一番長く滑れるスキー場である。さすがのこのマンモスも今週末7月4日の独立記念日でシーズンを終わることになる。そして11月の第1週にはまた開くのである。
独立記念日の三連休が始まる7月1日、佐野さんは会社のマイク後藤と早い時間に出発するというので私は斉藤さんの仕事が終わるのをまって、7時くらいにトーレンスの自宅から出発した。
道路はいつもの週末の金曜と違い、連休前の金曜は7時をまわるとすでにピークを過ぎ空いている。トーレンスから5時間、夜中の12時にマンモスに着いた。それから1時半くらいまで酒盛りとなる。マイクは日系人で日本語を話さないので会話は英語と日本語。でも本人が言うには、聞く分には55%はわかると言う。この半分ではなく5%が曲者である。日系人は子供のころから周りに日本語を聞いて育ち、聞く能力はあるが、話すのは自信がなくてあまり日本語を話さなくなる人が多い。マイクも実はもっと判っているような気がする。
朝、7時くらいに起床。佐野さんは朝から、ツール・デ・フランスの中継を観ている。9人で1チーム、全部で22チームの198人が毎日180キロくらい3週間に渡ってヨーロッパを走り回るタフな鉄人レースが今日スタートした。
佐野さんは今日は滑らず、マイクと釣りに行くと言うので、斉藤さんと9時少し前にゲレンデに向かう。今週末はスタンプ アレーがまだオープンしている。7月にマンモスで滑るのは私は始めてである。独立記念日のスキーというとイベント的な最低限の条件でのスキーかとおもっていたが、今年は雪がおおく、スタンピー、ブロ−ドウエー、フェース、23番、アッパー。ロ−アーのゴンドラと2週間前と同じ、かなりの部分が開いている。
顔隠すお尋ね者の二人。夏になるとスキーではなくバイカーを移動させるため自転車用トレーラーを引っ張るシャトルバス
駐車場からみるゲレンデは2週間前より1メートルは雪が溶けている。
一本スタンピーを滑って様子を見る。雪はすでに柔らかくなっている。結構重くて疲れるスキーである。スタンピーの下のほうはかなりベアスポットがあって土が出ているが、全体的にはまだまだ沢山の雪がある。今の時期滑られる事がスキーヤーにとっては感激である。
ベアスッポットの目立つスタンピー、それより上はまだ充分な雪がある。
フェースを滑り、フェースの裏を滑る。ブラックダイヤモンドの急斜面ドロップアウトを滑る。標高が低くなると、ところどころ制動のかかる滑り難い雪質もあるが、上の方は充分な雪が残っている。ウエストボールのモーグル斜面にはすでにモーグラーが集まっている。我々もウエストボールに行って見る。
今日のモーグルコースは雪が柔らかくてスピードを殺せるので私としては滑り易いコンデションである。一本目が体力、気力が充実した状態で一番良い条件で滑られると思っている。ウエストボールのゲレンデの上から連続して続く瘤を見下ろし、大きく息を吸い込んで滑りはじめる。出だしは幾分なだらかであるが、瘤は細かくて深い。段々とターンの間隔が速くなってくる。呼吸はすぐに酸欠状態になるので意識的にプールで潜水をするように大きく息を吸い込む、途中で息をつくが下から突き上げる衝撃で普通の呼吸が出来ていないので余計に疲れる。どう自分のリズムを保つかがキーポイントとなる。なるべく斜面に負けないように体重を前に集める。今回はいつもコースアウトする地点も通過して、調子良くリズムが続いている。半分くらいで停まって一休み。この地点まで一気に滑れたのは初めてである。
呼吸を整え、残りのコースも無事にこなし、この一本目のモーグルは私としては会心の滑りであった。初めてウエストボールを途中で一回停まっただけで滑り降りる事が出来たことになる。モーグルは難しい、一度イメージが維持出来なくなるとリズムが取れなくなりコースアウトすることになる。一回目の滑りが一番良かったと思えば2回目の滑りは一回目より悪くなる。瘤斜面が怖いと思えば腰が引けて瘤を数個超えただけでコース外へ弾き出される。スピードと細かいターンに負けないように滑らなければならない。我々の年齢で挑戦し続けるスキーヤーは少ない。
23番リフトにて、向かって左の斜面がドロップアウト、その滑り口。遠くにレーククローリーが見える。
半ズボン、上半身裸のスキーヤーもいるのはさすがに7月のスキーである。雪が溶けないように塩をまいているが、スタンピーで滑降中、ゲレンデ上の雪の塊に乗り上げて転倒してしまった。柔らかいと思って安心して乗り上げた30cmほどの雪の塊が硬かった。斉藤さんとのぶつかり稽古以来、今期2度目の大転倒であったが、幸いなんともなかった。
マッコイのバーとその前の風景。モーグル斜面を上から見る。スタンピーの転倒の原因となった塩で固まった雪の塊。
ミルカフェのデスクジョーカーとコーニースの斜面にて上から撮った私と、下から撮った斉藤さん。
夕方、釣り部隊の佐野さんとマイクが帰ってきた。ランディーレークで入れ食い状態で一人20匹くらいずつ釣ってキャッチアンドリリースで三匹だけ持って帰ったと言う。佐野さんとしては釣れ過ぎるのはおもしろくないし、レーククラウドのような大物がいないのが物足りないという。
今日は私のカレーと青梗菜の炒め物。斉藤さんのポテトサラダ、そして虹鱒の塩焼きである。ついつい、食べすぎ飲みすぎとなる。今夜も撃沈で爆睡。
トラウトの塩焼きとジャグジーとベランダでくつろぐ佐野さんとマイク
日曜、午前中は佐野さんも滑ると言うので、マイクは一人で釣りに出かけた。
途中、今日は昨日より人が出ている。スキーヤー、ハイカー、バイカー。
フェースの裏表を滑る。ここが一番良い雪が残っている。やはり佐野さんが滑ってくれると嬉しい。しかし休憩が多い。3本目にはメインロッジに降り最初の休憩。これは佐野さんがウインブルドンのテニスを観たいからであったが、テレビのあるバーは閉まっていたので、ミルカフェに移動。すでにテニスが終わっていたので、三度目のマッコイに移動。
窓際に座っていた子供がガラスに止まる蛾を怖がっている。「これはアダルトの蛾か、ベイビーの蛾か?」と聞かれ佐野さんが「これはまだ生まれたてのベイビーで大きくなるとこのくらいになるよ」と両手を広げる。駄目だよ、純情な子供を騙しては。
ウエストボールのモーグルを3本滑ったが、昨日で満足し切ったか、いまいち今日は気合が入らない。早々と11時過ぎには上がることにした。シャモニーに戻る道すがら、バイカーが大勢来ている。斉藤さんいわく、「バイクは大勢で乗った方が楽しい。2人より4人、4人より8人、8人より16人、 倍かー」
モーグル斜面をヒーコラいいながら滑る斉藤さん。
2時からレーククローリーに釣りに行く。しかし、ゲートが閉まっていて湖岸へ車が入れない。しょうがなくコンビクトレークに行く。混んでいてなかなか車を停める場所がなかったが、やっと停め、湖畔まで釣り道具とアイスボックスに入ったビールを運ぶ。この湖はクローリーのような大物はいないが、風光明媚な湖である。かなりの人出がある。しかし午後のこの時間、時間的には一番釣れない時間帯である。
それでも3時間粘ると夕方になりマイクが2匹釣った。佐野さんによれば、たまたま彼が使った餌が良かっただけ。厳しい条件下で釣ってこその釣り人という考えもある。
風光明媚なゴンビクトレーク、佐野斉藤のご両人、漫才コンビのようでしょう。
光り輝く水面と背景の雪渓が残った山が美しい。
今日の釣り人と、釣られてしまったお馬鹿なお魚
ジャグジーに行ってる間に今日は斉藤さんが餃子を作ってくれている。ジャグジーは今日もすごい込みようである。客層はいつものスキーヤーでなく、家族ずれのバケーションを過ごす人たちがメインである。戻ると夕食が出来ていた。まずはバケツにいっぱいくらいのサラダ、我々は馬か?と突っ込みたくなるほどの量。中華野菜のあんかけ風、それから餃子の第一陣、第2陣、これで終わりと思ったら第3陣。何でも56個作ったそうで、とても食べきれない。アルコールも昨日の今日で控えめになる。
すっかり満腹になり、腹ごなしに食後の散歩に行くことにする。すでに日は落ちているが、閉鎖しているキャニオンロッジに行き、建物をひと回りして、戻ってくるとちょうどビレッジの方で花火が上がり始めた。独立記念日は明日だが、3連休も明日で終わるので明日の夜にはリゾート地としてのマンモスはがらがらになるのであろう。
今日の料理と食後の散歩でキャニオンロッジのゴンドラ、リフトの点検をする斉藤さん。散歩の後リクレーションルームでくつろぐ。
独立記念日の朝、夕方から予定があると言うマイクと佐野さんも一緒に帰るというので、朝食を食べた後、ベランダで送る二人と別れて斉藤さんとゲレンデに向かう。独立記念日にスキーをするという、この後もそうそうチャンスが無いであろう話の種を作れたら良い。私も斉藤さんもマンモスでの7月4日のスキーは始めてである。どうせそんなにスキーヤーも来ていないことであろう。
駐車場に着くと考えが甘かったことを知る。すでに車を停めるところが無いほど混んでいる。星条旗の模様のはいった衣装とか、かなり派手派手のコスチュームで滑る独立記念日を祝っている人も多い。
「まずは、やっぱり山頂でしょう」とゴンドラで山頂に上がると、山頂は記念撮影をする人達で大賑わい。やはり一目で独立記念日のスキーとわかる写真がいい。ビキニ姿の女性スキーヤーが写真を撮らせてくれる。我々も記念撮影をして、コニースを滑り降りメインロッジに降りる。
今日は11時にはあがるつもりである。今シーズン最後の2ランはフェースの表を滑ってから最後は気持ちよく滑られるフェースの裏と決めていた。フェースの表は正面とウエストボールの瘤斜面との選択肢がある。「斉藤さん、最後は身持ち良く滑り易い裏斜面をいくとして、その前は正面を流しますか、それとも最後のヒーコラ言いますか?」
「ヒーコラ行ってみましょうか?」と言うことでウエストボールの瘤斜面で今期最後のヒーコラを言うことに。今日のモーグル斜面は暖かい日が続いているので、ことさらに凶暴そうで深い瘤が育っている厳しい斜面である。散々ヒーコラいいながら降りて、もう一度上がって、今期最後のランを決めることにする。今日はゲレンデも込んでいる。そんな人たちの間を縫うようにスタンピーを駐車場へと降りて行く。シーズン最後のランに佐野さんが参加できなかったのは残念であったが、例年に無い大雪で、楽しいスキーが出来たシーズンであった。
帰りがけに、「7月4日までスキーしました」という記念Tシャツを買う。街はまだバケーションを過ごすリゾート客で溢れていた。
これでシーズン終了である。お疲れさまでした。
スキー仲間の皆さん、そしてマンモスにありがとう。
記録破りの大雪で、良いシーズンでした。
また来シーズンも楽しいシーズンでありますように。
完
気合の入ったコスチュームで独立記念日を祝うスキーヤー達。最後は記念のTシャツを着た私でした。