雪よ降れ降れ   11月11日2007年   小堺 高志

 

カリフォルニアでは11月の最初の週末に夏時間から冬時間に切り替わり、時間は1時間遅れとなる。とたんに夕暮れは早くなり、帰宅する頃にはすっかり日が落ちている。

地球規模の温暖化は確実に進み、今年はなかなか寒さを感じさせない気候のまま秋から冬に変わり、マンモスはオープニングディーを迎えた。すでに11月8日からオープンしているが公式なオープニングディーは今週末の土曜日、11月10日である。

先日ハワイから戻ったばかりの佐野さんはまだ時差ぼけがあるそうだが、ハワイのリゾート地では偽セレブとして、かなり張ったりをかまして来たようである。

 

インターネットの情報によれば、今回オープンするのはブロードウエイの1斜面だけでリフトは一本だけ。金曜日の朝、佐野さんと話した段階では「だめだね、今回はやめにする?」と佐野さん、すでに原ちゃんとの電話では今回はあきらめていたよう。先月わずかな積雪があったとは言い、コンデションの悪さは遺憾ともしがたいオープニングである。

しかし私はあきらめない。「この後、サンクスギビングまで行けないのなら、トレーニングと紅葉を見に、私は行きたいけどね」と言うことで昼ごろになって行くことになった。原ちゃんは来ないだろうという予測で(もし来たかったのならごめん、原ちゃん) 聖志さんを誘ってみるという。聖志さんは佐野さんが2回目の渡米をしたときに最初にハリウッドの語学学校であった友人で、永らく寿司ハウスでシェフをしていたが、もっか浪人の身であり時間をもてあましている。スキーはしないが料理はしてくれる。

 

買い物をして、5時半ごろに出発してマンモスに向かう。佐野さんと原ちゃんはスキーシーズン終了後も、何度か釣りや山歩きで来ているが、私は前回のスキーから5ヶ月ぶりのマンモス詣である。

ロス郊外の開発が進み、またさらに道路が混んで来ているように思う。到着は11時半、軽く飲んで1時半ごろに眠りに付く。スキーに来ると喉の具合が良く感じるのは単なる気のせいか、それとも本人が気づかないだけで、ストレス発散のせいか?とにかく気分転換は健康状態を良くしてくれるのは事実である。

 

11月10日、朝9時、メインロッジに向かうと久しぶりに見るマンモスの全景が姿を現す。前回の積雪でうっすらと雪化粧をしているが良く見れば地肌が透けて見える状態である。チケット売り場で今季のシーズンパスを受け取る。MVPのゴールドメンバーである私たちは毎年継続している限り7日分くらいの料金で年間パスを購入できる。

今日はメインロッジの目の前のブロードウエーの斜面だけオープンしている。スキーをしないキヨシさんを残してリフトに乗る。リフトの上から見ると、ブロードウエーのコース部分だけ人口雪で白いカーペットが敷かれたように見える。コース上に時たま転がる石ころを蹴飛ばさないよう、真ん中のコースを取り、一本滑ってみる。滑り出しは幾分緩んだ重い雪が表面についているが途中から硬くしまった雪の状態が終点のメインロッジのまで続く。このコンデションに佐野さんは早々にあがってしまったが、私はこれは今季に備えたトレーニングであると心得、さらに5本滑る。メインロッジで二人に合流すると、11時から恒例のオープニングセレモニーである。

このスキー場のマスコット・キャラクターである ウィリーに迎えられシャンペーントーストが行われる。生バンドの演奏を聴きながら持込のビールと振舞われる無料のシャンペーンを何度か行き来して補充するうちに気分良くなってきた。その後もう一本滑り一度コンドに戻り昼食をとり、午後の予定であるジョージ湖に向かう。



 
乾杯                        聖志さんと佐野さん

 

今年は11月15日まで釣りが出来る。今年最後の釣りであるがライセンスを持つのは佐野さんだけ、夕飯に一品を加えるかどうかは佐野さんの腕にかかっている。レーク・ジョージで、餌を使わないフライフィッシィングに挑む。時間は午後3時、周りにはすでに何匹もあげている釣り人がいる。ワインを飲みながら釣りをする佐野さんの竿に愚かな魚がかかったが小さいやつである。周りをみると、30cm近い鱒をリミット近くあげ、すでに帰路に就く人もいる。たくさん釣り上げた人は私たちに見せ付けるように魚をぶら下げて、誇らしげに引き上げて行くが、佐野さんはそのやっと釣った魚を「これは小さいから放してやろう、まだ釣れるから」と見栄を張って放流しようとする。

 

そこまで佐野さんの腕を信用していない私は「今日は魚が食べたいから、とりあえず手ぶらで帰ることのないように、この一匹は確保しておこうよ」と静止する。しかし獲物は大き目のメザシかと思うほど小さいのだ。

私の中では3人がそれぞれの役割を遂行した時に釣りという一連の作業は完成するのである。佐野さん釣る人、聖志さん料理する人、そして最後に私が食べる人である。佐野さんがまずは一匹釣るところからこの作業は始まるのであり、

食べることにより釣りは完了する。ここで放流してなるものか、その後釣れなかったら困るのである。

 

フライフィッシングの針は、魚を傷つけないためと称して、返しの付いていない針を使っている。そのため食いついた魚を取り込む際、常に糸を張って置かないといけないそうで、そこが難しいところ。その後、2匹ほど一度かかった魚を取り込み中に逃した。私にすればそんな針を使ってもらいたくないが、フライとはそういうものらしい。もう一匹小粒の魚を釣って、2匹になったところで最後のフライ針をなくしてしまい、退却となった。小さな獲物をビニール袋に入れて隠すようにその場を後にする我々であった。堂々と皆さんに見せ付けるように私たちも帰りたかったが、佐野さんが釣る魚はなんで小粒なのか?



 

今回の夕飯はプロである聖志さんにお願いし、佐野さんとサウナに行く。さすがにこの季節で雪がないと言うことで、宿泊客は少なくがらがらである。しかし久しぶりの運動とワインで急速な睡魔が襲ってきた。何とか踏ん張って先に上がり、シャワーを浴びてウトウトしていると佐野さんがなかなか戻らない、やっと戻ってシャワーを浴びたと思ったら大人しくなってしまったので見に行くと寝ていた。彼もサウナにいる時から眠かったようである。

佐野さんの釣った魚は聖志さんにより器用に三枚に卸され、さらに小さくなったが、ムニエルにされ、おいしく頂いた。次はもっと大物をお願いします。と言うことで、放流しなかったこの鱒が胃袋に入ることにより、釣りは完結したのである。その他いろいろと聖志さんの作ってくれた夕食で胃袋も満足して一日が終わった。

 

朝起きると駐車場の地面が濡れている。急いでテレビをつけると今朝のスノーレベルは7500フィートだという。標高8000フィートあるここは雨でも、8900フィートのメインロッジはかろうじて雪であって欲しい。だが、早朝に積もっているとしても5センチくらいであろう。サンクスギビングの連休までに大きな嵐が待たれるが、あと2週間しかない。

こういう日の服装はむずかしい、雨なら諦めが付いてそのまま帰ってくるのだがメインロッジまで登ってみないと分からない。「これでは寒いかね?」と言う佐野さんに「大丈夫だよ、寒かったら我慢すれば済むことだから」と受け流す私。

 

メインロッジに行く途中から昨日まで雪のなかったところも白くなっている。ゲレンデには予想を上回る10cmほどの積雪があり、山全体がやっと冬山らしくなった。早速滑ってみると、幾分重い雪ながら、いい感じで滑られる。昨日と同じく中級者用の斜面であるブロードウエーが一斜面しかオープンしていないが、それでも上から下まで普通に滑って3分かかる、日本では小規模なスキー場くらいの長さはあると思う。今回はシーズン初めのリズムをつかむのと、使っていなかったスキー用の筋肉を目覚めさせるのが目的である。だんだん調子が出て来る。デジタルカメラのビデオ機能の調子を見るため、佐野さんのすぐ後ろについて滑りながら撮影をしてみることにする。左手にポール、右手にカメラで前を滑る佐野さんの後を同じようにターンしながら追う。昨日と違いしっかりとエッジの効く雪質なので気持ちよく滑れる。今日は空が荒れていて滑るたびに天候が変わる、霧、薄日、雪、晴れ、そしてまた晴れ、霧。1時間ほど滑って、休憩、その後私だけ2本滑って11時にあがる。帰りがけにはまた雪が降り出した。


前日と打って変わった冬景色。

コンドに戻り、昼食を食べているといよいよ雪は本降りとなってきた。これが正しい雪国のあり方である。雪国では冬には毎年あたり前に雪が降って欲しい。このまま降り続けて次に来る時は万全のスノーコンデションで滑れることがスキーヤーの願いである。

雪の中、後ろ髪を引かれる思いで帰路に就く『雪、雪、降れ降れ、もっと降れ』

 

いろんな天候を見せてくれた今回のマンモス行き、最後にビッグパインの近くで私も初めての砂嵐を見せてくれたのであった。


雪                    秋                   砂嵐