大雪           2009年1月26日    小堺 高志

 

お正月以来3週間、マンモスに雪が降っていない。今週の水曜日から待望の雪が降り出したと聞いてマンモス行きを決めて金曜日に雨の中を佐野さんとマンモスに向かう。今回は嘉藤さん、私の友人ロブがそれぞれマンモスに昨日から入っている。来週の水曜まで雪が降り続けると予報されているが、温度が高いトロピカルストームで、土曜日は雨のち雪という予報が少し気になる。雨の中でのスキーは最悪である。エルセントロからマンモスに向かっている菊地さんと連絡を取りながら行く。到着予定は11時半ごろ、彼と同じくらいの時間につくはずである。途中のレストエーリアーで停まって佐野さんが買ってきてくれたお弁当を食べる。これが買ってから時間が経っていたせいか、ご飯がボソボソで硬い。100回くらい噛まないと飲み込めない代物である。やっぱりガソリンスタンドでマイクロウエーブを使わせていただけば良かった。

 

雨の中を北上する。これがすべて雪になれば大雪であるが、外気の温度が下がらない。マンモスまであと45分のビショップは、やめてくれよと言うほどの大雨であった。外気は華氏36度、華氏32度以下が摂氏0度の氷点下であるから雪に変わるにはもう少し寒くならなければいけない。マンモスの街に入っても雨、温度はまだ35度。マンモス中心街を過ぎキャニオンロードに入ったら34度になりやっとみぞれに変わってきた。

コンドのパーキングには15cmほどの降りたての湿った雪が積もっている。荷物を降ろしていると5分遅れで菊地さんが着いた。

 

朝起きると薄日が差している。昨日よりは良さそうであるが、判らない天候である。昨日まで調子が良かったのに今日は少し腰が重い。もう8ヶ月くらい良くなったり悪くなったりの状態であるが、昨日6時間も一人で運転した無理が出たのかと思う。帰りはもっと佐野さんに運転してもらおう。小雪の中を歩いてキャニオンロッジに向かう。こんな時は歩いていけるロケーションの強みである。もう少し離れていたら毎日車をだすか、シャトルを待たなければならない。キャニオンロッジまでは歩いて200メートル位のものだと思う。そのうち半分はスキー場の駐車場である。キャニオンロッジに着くとそのまま二階に上がり、開いているロッカーを捜す。そこで靴を履き替え、ロッカーに靴を入れておく。ここは3階がリフト券売りが、レンタルショップ、お店などがあり、この階からゲレンデに出る。4回はセルフタイプのレストランと、バーになっている。

ゲレンデに出るとここからは4機のリフトが動いている。2機は初心者用で、我々は大概8番リフトかキャニオンロッジエックスプレスで滑り始める。これから乗り継いでゆくとマンモススキー場何処でも行くことができる。今朝のキャニオンロッジエックスプレスはまだ人を乗せていないのでしょうがなく8番リフトを一本滑る。辺りは久しぶりの大雪である。天候も悪く雪が降っているので山の上半分は今日は開きそうもない。も昨夜グルームされたあとに、20cmくらいの新雪があり、滑り易い。グルームされていないところは50cmくらいの深雪になる。5番からミルカフェに向かう途中、少し深雪に慣れてきたと思った私はグルームされていない深雪の中へはいっていった。途端に大きな制動がかかり、湿った雪の重さをスキーに感じる。片足をとられバランスを崩す。5メートルほど片足で踏ん張ったが結局転んでしまった。雪が深いのでバスタブ状態で埋まってしまった。なかなか立ち上がれないでいると後ろを滑っていた菊地さんが助けに来てくれてポールで引き起こしてくれた。


     

スタンピーのリフトラインに並んでいると嘉藤さんが声をかけてきた。一本滑って合流してリフトに一緒に乗る。ラリーという元々カナダのウイスラーの出身で今はマンモスに住むスキーヤーと、日本からのお客さんで私もすでに3回ほどお会いしている元々サンタバーバラに住んで居られた鈴木さんの奥さんと一緒である。嘉藤さんは先週マンモスでスキー場のホストにスキーのスピード違反でチケットを切られたそうである。それは3番リフト下の他のスキーヤーがいない状況でリフト乗り場に向かって下りているところをどこかで見ていた若いホストの一人が来て違反切符を切ったという。嘉藤さんとしては誰にも迷惑をかけていない状況下での納得の行かないチケットであると言う。スキー場のホストとは大概ボランティアでお客さんにスキー場の情報をあげたりする案内係である。パトロール員であれば他のお客に迷惑をかけたり、滑ってはいけないところに入ったスキーヤーに違反チケットを切るのは知っているが、ホストにそんな権限を与えていたとは私も始めて聞いた。この違反チケットはサッカーで言うイェローカードであり2度貰うとシーズンチケットを取り上げられるのである。

ラリーはマンモスの経営団体であるインターウエストのマーケティングのアドバィザーとかもしている凄いスキーヤーで、納得のいかない嘉藤さんはこれからラリーと一緒にメインロッジのマネージメントに文句を言いに行くという。

 

昼休みにマッコイステーションでビールと焼酎のお湯割を飲んでいると嘉藤さん、鈴木さんが合流した。先ほどの件がどうなったか聞くと、あの後メインロッジでセフティー部門の最高責任者であるダイレクターと会い、言いたいことを伝えたそうである。

スキー場にはいろんなレベルのスキーヤーがいる。それぞれのレベルの中でコントロールできる範囲はそのスキーヤーのスキー技術により違って当然であるし、スキーの楽しみ方のレベルも違う。それを誰に迷惑をかける状況でもないのに一方的、画一的にチケットを切るのはおかしいし納得できない、と言うのが嘉藤さんの言い分である。私も100%同感である。

 

セフティーのダイレクターによればホストにチケットを切る権限を与えたのは最近になってからのことであり、確かにどういう状況下でチケットを切るかという明確な規定が決められている訳ではないと言う。嘉藤さん一人では文句を言っても、どこのどんなスキーヤーかわからないし聞き流されたかもしれないが、ラリーが「ユキと一緒に滑っていたら俺もチケットを貰っていただろう」とか嘉藤さんは転んだ人などに何時も声をかけるし、技術をもったグレートスキーヤーであるとかと、後押しをしてくれ、スキー場のマネージメントとして、あらゆるレベルの多くの人たちが、より楽しく滑られるよう次のミーティングではチケットを切る条件について徹底をしてくれると言ってくれたそうである。

 

昼休みに中腹にある休憩所マッコイで会おうといっていたロブに連絡すると家族づれなのでキャニオンロッジ界隈からこちらに来れず、後でローラーコーストで会おうと言う事になった。

加藤さんと何本か滑りながらアドバイスを受ける。私はもう5センチくらい腰の位置を前に出すと良いそうである。気をつけて滑ってみよう。

すこし湿った雪であるがスキーが気持ちよく走る。腰に負担をかけないように滑らなければならないが、今のところ大丈夫である。

 

嘉藤さんは月曜までいて、その後ラスベガスのスキーコンベンションに直行するそうである。2月にはコロラドに行くと言っていたし、やはり相当なスキーの虫である。

 

2時半ごろ嘉藤さん達と別れてローラコーストの辺りにいるロブを探しに行く。電話で連絡を取りながらローラコーストのリフト降り場でロブに出会えた。家族と子供の友達ひとり計5人で大型のモービルハウス(キャンピングカー)で来ている。ロブは17−8年前、私がメキシコテワナのプラントプロジェクトを始めたころに付き合い始めた特殊トレーラーの会社の息子で、そのころ良く一緒に仕事でメキシコに行った。彼は私と会う前、ふそうトラックのコマーシャルフィルムの撮影隊の一員として1ヶ月くらい日本人の中に入ってアメリカ全土を回る機会があり、日本人とスルメが大好きになったと言っていた。スルメというジャパニーズビーフジャッキと日本食もその時に覚えたという。ラーメン、寿司、しゃぶしゃぶが彼の大好物である。その後、昔空軍のパイロットであった彼のおとうさんの操縦する自家用飛行機でマンモスに連れてきてもらったこともあるし、何度か一緒に滑っているし、カナダのウイスラーでも会っている。

そんな彼が一年ほど前、肝臓を悪くしたと聞き心配していた。血液中に鉄分が増え、検査の結果では肝臓移植の可能性もあると聞いたときには驚いたが、その後 肝機能が回復し、今は食べ物に気を付けて、薬を飲んでかなり良くなって来ているとは聞いていたがスキーをやれるほど回復しているとは知らなかった。彼が元気になると付いて行くのが大変なハードスキーヤーである。一緒に何本か滑って、後でキャニオンロッジのバーで会おうと先に上がる。バーで彼の家族を紹介され、ビールを一杯ご馳走になる。私の隣を滑る彼の元気な様子を見られてなによりである。今度は一緒にスキーに来たい。

 

今夜は嘉藤さんはラリーに夕食に誘われているそうだし、ロブは家族でレストランに行くと言うので招待客のいない夕飯である。今日のメインは牡蠣なべである。すでにいい気持ちになっている私は手元がすべるが、3秒間ルールを使わせてもらう。3秒間ルールというのは食べ物を床に落としても3秒以内に拾えばセーフという知る人ぞ知るルールである。ちゃんとその後洗いましたがね。

 

日曜の朝、外に出て雪かきをする。20cmくらい新たに積もっている。外は今日も相変わらず曇り空で雪がぱらぱらと降っている。雪崩をコントロールするため人工雪崩を起こす大砲の音が響いている。今日もあまり視界は期待できないが昨日くらい見えれば良い。

佐野さんがパンケーキとスクランブルエッグの朝食を作ってくれると張り切っている。台所を任せてシャワーを浴びて出てくると案の定、ここは案の定であるが、焦げ臭い匂いが漂っている。「このフライパンではパンケーキを焼くのは無理だよ」と、黒焦げの崩れたパンケーキが出てくる。まだ生地があるので私が焼いてみる。火力を落とし、パンケーキの大きさを佐野さんのパンケーキの3分の一くらいの大きさにする。正面がぶつぶつと少し硬くなったら引っ繰り返す。ごめん佐野さん、やっぱり私が作ったら上手く出来てしまった。

 

キャニオンロッジに向かって歩く。今日は昨日より寒いので新しく降った20cmほどの雪質は軽くて良い。ローラコーストに降りてみるとまだ手付かずの雪が残っていてこれまたパラダイスで気持ちよく滑れる。もう一本、今度はリフトの真下辺りに見つけた林の中の手付かずの雪のある場所に向かう、しかしリフトの上からでは判らなかった窪地にはまってしまい、さあ大変、20−30cmほどスキーが埋まって20メートルほどラッセルをしてコースに戻る羽目になる。雪が重いので、これは腰に悪いかも。ウォールストリートを滑ってミルカフェ前のリフト乗り場に並んでいると、嘉藤さん、鈴木さんに会う。どうも視界はキャニオンロッジ側の方が良いようである。マッコイステーションの裏側にある急斜面、ロジャースを滑りたいと佐野さん、菊地さんが言うので、向かう。ここは短い急斜面であるが雪の付がよく荒らされてはいるが深い雪が楽しめる。雪の抵抗が大きいので気をつけて滑る。

 

その後、裏側の25番の斜面を滑り、一度25番で戻ってキャニオンロッジに向かうコースをとるが、私は25番リフト下の開けたコースを選び、二人は左にトラバスしてイーグルリフトの降り場に直接出る林の中のコースを行く。私の選んだコースはかなり滑り込まれているが滑り易かった。ショートターンで攻める。かなり決まっていたと思うが、調子に乗って結構スピードが出て、障害物を避けようとして転倒、そこは4人乗りリフトの真下で観客が20人はいたようである。かっこ良く滑っていたはずなのに、ここでこけてはいけない。転んだ私を上のリフトから見ていた大勢の観客からかなり大きなどよめきの声があがったのである。

 

一度コースを間違えてイーグルに下りてしまった後、ブルージェーを下りる。ここは高度が低いところにある急斜面であるが、固められていて、リズムに乗り一気に下りてしまった。最後は3人で8番リフトからレッドウイングを滑り、今回のスキーは終了である。

今回は大雪でスキー場の上の方は結局開かず、下も視界不良ではあったが、22日からの嵐で150cmくらい降ったそうである。やはりスキーヤーにとり降りたての雪を滑るのは楽しい。

思えば今回が今年の滑り初めであった。湿った雪は気候の変化で冬の平均温度が上がっているのか?そのうちマンモスの冬も雨しか降らない時代が来るのかもしれない。しかし我々がスキーヤーでいる間は大丈夫でしょう、と佐野さんと話すのである。

帰りに見るシェラネバダの山々は久しぶりの太陽の下で山頂だけ雲をかぶり綺麗な風景を見せていた。いつまでも冬には雪が降り、この綺麗な雪山を見られる時代が続くことを強く願う。