雪降る春に             4月8日     小堺 高志

 

佐野さんの所に向かうのにはフリーウエー405号線を北に向かう。私の家からサンタモニカまで約30分であるが、夕方のラッシュ時には途中のロスアンジェルス空港を過ぎたあたりから何時も渋滞する。そこで90号線か105号線で西に抜けて比較的空いている下の一般道路に降りて行くことが多い。いつもは90号線で行くが今回は珍しく高架線になっている105号線を使う。ロスアンジェルス空港の直ぐ横、滑走路を右手下に見ながら直進してゆくと太平洋を望む道路にぶつかる。そこを右に曲がり進むとマリナデルレイに続く。そこからいくぶん内陸に戻り、さらに北進するとサンタモニカの佐野さんの所に着く。6時集合と言う事であったが、原ちゃんがまた集合に遅れていて、佐野さんのところで待つこと45分、原ちゃんがマリちゃんと到着。今度からは原ちゃんの到着予定時間に集合時間を合わせたほうが良いかもしれない。

 

今日で3月も終わり、季節的にはもう春である。この週末の4月第一日曜からカリフォルニアでは夏時間になり、時間が一時間進められる。

雨が降っている。天気予報に依れば、今夜マンモスはかなりの雪が降るそうである。久しぶりにチェーン装着の覚悟で雨の中をマンモスに向かう。雪解けが始まらなければならない時期にこのところマンモスでは毎週雪が降っていて、積雪は15−17フィートに達してまだ増え続けている。途中で夕食を摂って、マンモス到着予想時間は午前1時15分である。最近ではこの読みはかなりの正確さで当たる。しかし雪が降ればこの予定は大幅に遅れる事も考えられる。出発時に降っていた雨も2時間ほどで止み、時たま雲間に星が輝く。ビショップを過ぎてまもなく予報通り雪がちらついてきた。だんだんと雪が激しくなってくるが、まだ道路は濡れた状態で雨の道路と同じ感じで走れる。ハイビームにすると前方全面が真っ白に見え、雪がこちらに向かって吹き付けてくる。やがて道路はシャーベット状の雪に覆われるがまだ前の車が走った跡は雪が飛ばされ黒く道路が出ている。まだ凍結していなければ安全圏内でいくぶんスローダウンするだけで走れている。395号線を下りるとマンモスの街までは後4マイルほどである。道路は全面白く雪に覆われ始めているが、ここからは一般道路なのでゆっくりと走れるのでいくぶん安心である。しかし何処でチェーンを着けるかの判断をしなければならない。395号線を下りて直ぐ、道路横に何台も車が止まってチェーンを着けている。自分で着けられない人にはチェーンの装着業者が出ていて25ドルで着けてくれるが、まだ湿った雪なのでここでチェーンを履いてしまうのは素人である。経験が物を言う判断であるが私はまだそのまま先に進む。キャニオン ロードに入った『ヴィレッジ』からは残り1マイルくらいであるがこの1マイルがいくぶん坂道になり、すでに5センチくらいの雪に覆われている。雪が硬くなっていればチェーンの着け時であるが、まだブレーキも利く。一度止まったら動けなくなるので一速でゆっくりと同じ速さを保ちながら坂を登り切る。午前1時20分、無事にシャモニーに到着、これで今回はチェーンなしで完走であるが、駐車場には15センチほどの雪が積もっている。

 

午前3時に寝て6時に起きる。外を見ると晴れ。4月なのに2週間前に続いて今回も快晴のもと新雪を滑られる。ありがたい春の雪である。8時半のオープニングから滑り出すべく8時15分にゲレンデに向かう。雪も止み、快晴ながら空気は冷たい。リフトを乗り継いで移動しながら5番リフトに向かう。目指すは5番の表斜面と裏斜面の両面狙いであるが5番リフト乗り場に着くとすでに10人ほどのスキーヤーが待っているが、リフトは動いているのにまだ乗せていない。目の前には手付かずの雪面が見えているので待つ価値有りと読んで待つ事にする。列に並んだが、なかなかリフトに乗せてくれる気配がない。15分、30分と経ち、待っている人も50人くらいになり皆イライラしている。かといって折角ここまで待ったのに諦めるのはもったいない。そのうち、左側のゴールドラッシュと右のフェースのリフトを降りてカットインしてくるスキーヤーたちが5番斜面の下部の雪面を荒してくる。裏側では雪崩のコントロールのために、人口雪崩を起こす大砲の音が響いている。「裏側の斜面でパトロールが加勢を待っているため、リフトに乗せるオッケーが出ない」とリフト係から説明があっただけで、いつまで寒い中で待てば良いのか分からないまま、今や後に引けない状態である。待つこと50分、10時近くなってやっと乗れた。ここで此れほど長く待つ事になるとは思わなかった私の判断ミスだが、前回は同じコースの選択で成功しているから、これも結果論で、今回はたまたま運が悪かったのである。山の下部では雪が重く新雪を滑るとかなり体力を使う。一方グルームされたゲレンデは最高に近いコンデションである。それでも私は新雪に挑む。風のためいくぶんコンディションに斑があるが、時たますごく良いスポットがある。山の裏側14番、ウエストボールの瘤斜面と滑り続け、年甲斐もなく気が付けば我々としては珍しく午後4時まで滑っていた。

裏側斜面の14番リフト                      パラノイド フラットの急斜面

 

今回はマリちゃんが料理係を買って出てくれているので私は楽である。砂糖とマヨネーズがないと言われたが、車を出すのは大変である。散歩がてら、キャニオン ロッジの食堂に行ってコーヒー用の砂糖とホットドック用の小分けされたマヨネーズを一掴みずつ頂いてくる。宿泊先がスキー場に近いとこんな利点もある。

ところで最近コンドに、皆でお金を出し合って新しいソファーベッドを入れた。掛け布団としては毛布の類もあるが、我々は普段から寝袋をコンドに置いている。それとは別に佐野さんの羽毛の布団と言うのがコンドに置いてある。大量の羽毛を使っていると自慢するが確かに羽毛の製品は沢山羽毛を使うほど高くなる。厚く重く 羽を沢山遣っているのはたしかだが、羽は羽でもこれは羽根ではないか?羽毛は羽の下のうぶ毛の部分であり、良い羽毛の定義は、軽く、コンパクトにまとまり、大きく膨らみ暖かいというものであるが、この布団は押し潰しても一抱えもあり、さらに大変重い。どのくらい重いかというと夜中にうなされる位重い。私には鶏の羽を引っこ抜いて袋に詰めただけの代物に思えてしまうのであるが、羽毛の掛け布団ということになっているのである。

 

今日は眠る前に時計を一時間進める。明日日曜から夏時間で一時間早く何事も進めなければならない。前日まで5時であった時間に6時として起きて、前日までの7時半が8時半のリフトの動き出す時間となる。1時間睡眠時間を損したと、いくぶん寝不足を感じながらコースに出ると、昨日と違い今朝は、主なコースはほとんどグルームされてる。雪質が良いのでかなり降りたての粉雪に近い感じで何処でも滑れる。風で飛ばされた雪が昨日の滑った跡を適当に消してくれて新雪のような雪面になっている。アッパードライクリークは谷になっているので風で飛ばされた雪の吹き溜まりとなり、リフトの上からスキーヤーのシュプールと笑顔を見れば、かなり良い状態になっているのが分かる。我々もそこに向かうことにする。まだあまりスキーヤーがいない。我々が今朝この谷に入る5人目くらいのスキーヤーであったが、私が先頭で谷に降りていく。思った通りの雪質ですごく滑り易い。細かいターンで谷の中央に跡を付けていくのは気持ちが良い。谷の下で止まって二人が下りてくるのをカメラを構えて待つ。二人がいくぶん大回りのシュプールを描きながら気持ち良く滑ってくる。何処を滑っても気持ち良いが昨日からのスキーでかなり体力を使っているので、瘤や荒れた斜面を滑ると気持ちに足が付いていかない。今日は12時ごろあがろうと思っていたが佐野さんと原ちゃんは11時にはもう上がりたいというので最後の一本をザ アクトの瘤斜面に行って原ちゃんにカメラで動画を撮ってもらう。私の動画を取ってもらうのはずいぶん久しぶりである。二人があがった後も私は滑り足りなくて疲れてはいるが、もう3本滑ってから12時前にシャモニーのコンドに戻る。

 

アッパードライクリークをクルージングする佐野さんと原ちゃん

マンモスから帰って翌月曜、火曜とマンモスに2日間で63インチ(160センチ)の雪が降ったと便りがあった。これまでの今期の総積雪量は16メートルにもなり、あと8インチで観測以来の年間降雪量の新記録のなるという。まだ6メートルから6メートル70センチの積雪があり、今年は7月まで滑られそうある。