ホワイト・クリスマス             12・31・03

クリスマスの日、早朝6時にサンタモニカの佐野さんの家に集合しマンモスに出発する。こんな早朝にマンモスに向かうのも初めてかと思う。さすがにクリスマス、どちらの方向の車線も交通量が少ない。マンモスでは昨日、一昨日とトータルで3フィートの雪が降った、そして今も降っているはずである。

トラフィックがないので、いつもなら2時間かかるモハベまで1時間15分で着いた。雨が降たり止んだりしている。朝日に照らされた山間に綺麗な虹がかかる。

虹                  雪の395号線            雪に埋まった車

ビショップを越えると道は上り坂になる、高度が上がるにつれ、あたりは薄っすらと雪化粧している。やがてぱらぱらと雪が降り始め道路も雪に覆われてくるが除雪され、砂が撒かれているので急いでチェーンをつける必要はないと判断し、スピードを抑えて走る。マンモスの街中に入ると一面の銀世界。キャニオン・ロードに入ったところで残りはあと1マイルくらいであるが、道路状態が悪くなって来たので安全重視でチェーンをつける。午前11時前にコンドに着くとパーキング場はここ2日間の大雪で除雪作業が追いつかない状態であった。周りの車は雪に覆われ埋まっている。空いているスペースのふかふかの雪の中に車を突っ込んで止める。雪は降ったり止んだりであるが気温が低いので雪質はいい。

 

早速に着替えてスキー場に向かう。何しろ1メートル近い新雪が待っている。スキーヤーにとりこれ以上のクリスマス・プレセントはない。

山の上部は視界が悪くほとんど開いていないようである。時たま人口雪崩を起こす大砲の音が響く。すでに午後になっているため、荒されていない斜面を探すのは大変だが、今日の雪質では何処を滑っても最高である。

キャニオン・ロッジ・エクスプレスに乗って上から見ていた斜面を一本滑ってみる。リフトの下を滑ると久しぶりに味あう深い新雪の感触である。悪天候のため全体の半分くらいしかリフトが開いていないがグルームしてない斜面が方々にある。昼ごろから滑り始め、2時間少しという短い時間であるが夢中でコースの端に残る深雪を探して滑りまくる。雪の中のホワイト・クリスマスであった。

 

二日目は、天候はいまいちであったが、それでも昨日より視界がよく、今まで閉まっていた斜面が次々に開き、20数年マンモスに通った私をしてベスト3の雪質と記録できる一日であった。まだ薄暗いうちに外を見ると昨夜から降っていた雪が止んでいる、風もほとんどない。ベランダの前に止められた車にはさらに1フィートほどの新雪がかぶっている。7時前に佐野さんを起こして言う。

「今日はいいよ。風がなければ今までにない最高の雪かも、リフトが動き始めると同時に乗ろうよ」インスタントラーメンの朝食をとると急いで用意してキャニオン・ロッジに向かう。ロッカーに預けてあるスキーとスキー靴を履くのももどかしくゲレンデに出ると、まずねらうのは、いつもあまり荒らされない雪面が残る5番リフトの左側斜面である。リフト・ラインの前から5番目くらいに並び、やる気十分で待っているが、8時15分になりリフトは動いているのにまだ人を乗せ始めない。ミルカフェの駐車場から入りゴールド・ラッシュというリフトに乗って反対側からあがってくる連中に先に斜面を荒らされるかもしれないのが気になる。待つこと25分、やっとリフトに乗れた。結構寒くてゲレンデもあまりグルームされていない、風も弱く、雪に関してはふわふわとした申し分ないコンデションである。リフトを降りると残念ながらまだ5番リフトは動いていなかった。動き始めるには、まだしばらくかかりそうである。ぐずぐずしているとすぐに他の斜面も荒らされてしまうので、予定変更して22番リフト乗り場へ向かう。22番からキャニオン・エックスプレスの降り口近くに下りるアバランチェはダブル・ブラックダイヤモンド(最高難易度)の急斜面である。このくらい深い雪だとある程度勾配がきつくないと雪に乗る前に体重でスキーが埋まってしまうが、ここはそんな必要以上に急斜面である。出だしは上からは絶壁に見える。その絶壁に地元の若者たちが数人飛び込んで行く。彼らはこのコンデションの中でもかなり飛ばしている。私は安全運転で確実なターンを切っていく。すでにかなり荒らされているがマンモスでは珍しい低温続きで乾ききった雪は軽く、あまり前者の滑った跡が気にならずに行ける。しかしこの斜面でこの高度だと休みながら行かないと運動量はかなり激しいものになるので若者のようにはいかない。

 

8番リフト                  佐野さん             

もう一度5番リフトに戻ると、ほんの先ほどオープンしたようで、スキーヤーが殺到している。リフトに乗るとすでに先頭集団が滑り降りているがまだあまり荒らされていない。リフト上から何処を滑るかコースを選ぶ。迷いながらも私は右へ2本目のシルバーという斜面に向かう。

最初の半分は結構緩斜面で深い雪のため直滑降でスピードを付けてからターンに入らないと雪の上にスキーが浮かない。良い感じで滑りだし、斜面が急になる手前で一度止まって呼吸を整える。ここから先はほとんど荒らされていないパラダイスであった。時間にしたらわずか20秒くらいの20回ほどの連続ショートターン、スキーを左右均等に浮かせてふかふかの深雪の上を左右に泳ぐ。ターンをするごとに自分が上げた雪煙が視界をさえぎるほど軽く大きく舞い上がってくる。リズム良く左右にターンを切ると雲の上を飛んでいるような感覚である。この一瞬のためにスキーを続けていると言っても過言ではない。一気に滑り下りてしまうと、振り返って自分の滑った跡を見る。綺麗なシェプールが描かれている。満足感で満たされる一瞬である。

佐野さんが下りてこないので右に回りこんでいくと、一つ手前の斜面を佐野さんが下りてくる。佐野さんも興奮しているが、私は自分が滑った斜面の方が正解であったと思っている。我が人生で数本の指に入る満足出来る一本であった。

 

その夜9時ごろ、期待していなかった斉藤ちゃんが突然やってきた。夕方から雪は止み、夜の積雪はなかったが、明けて土曜日は時たま青空の覗く良い天候であった。朝一番に二人が私にコースの選択を任すというので、まず斉藤ちゃんにも昨日の深雪の感触を味わってもらいたくて5番リフトにいく。すると今まで開いていなかった一番奥のドライ・クリークという谷になったコースが開いている。まだ数人しか滑っていない。

急いで谷の上に回りこみ谷に下りていくと、我々の前にはまだ3人位しか滑った跡がない。谷の上部はなだらかな斜面から始まるが、雪が深くて直滑降でもスキーが沈んでしまい、なかなか前に進まない。後ろから来る二人はすでに「何、これ!」と文句を言っている。それでも斜面が急になってからはいくぶんスピードに乗れ、スキーは浮いてきた。谷で両側が狭く、昨日より雪も心なし重い。もともとでこぼこの多いイレギュラーな地形なので難しい斜面である。私はこの難しい雪に乗るため幾分両足を開きぎみにしてスピードを両スキーに受け浮力を付けてスキーに乗り、廻していく。踏み固めてない深雪を滑るにはまずスキーを浮かれること、そのためにはある程度のスピードが必要であるが、前後左右の雪の抵抗に負けないように姿勢を構える(このスタンスをブロッキングという人もいる)、私の場合幾分重心を低くして左右のスキーのつま先を持ち上げるようにブロッキングするが高い姿勢のままブロッキングしてターンに入る人も多い。ふかふかして抵抗のない深い雪ではとりわけこのブロッキングは重要である。ターンに入ったらスピードに合わせて足にテンションをかけスキーで雪面を押すように雪に乗る。

深い雪の上でブロッキングが悪いと左右のスキーに均等にウエイトが乗らず結果的に下半身が安定せず、上半身もばらばらになる。斉藤ちゃんはこの傾向が強いと思う。佐野さんは重心を低くしブロッキングするところまでは良いが、その後の雪に乗る感覚を飛ばしてそのまま下半身だけで低いターンを続けてしまい、こんな雪ではだんだんとタイミングがずれてくるのでシャンプしてごまかしたりしているので、その感覚をもう少しつかめばもっとよくなるのであるが、言うはやさしいがそんなひとつの課題を身に付けるには気をつけて滑り続けても何シーズンもかかる。それは私にしても同じである。だからスキーは奥深いのである。

結果的にふたりの雪だるまにコース選択の非を責められたがこんなコースに挑戦する機会もなかなかないのだからとなだめるのであった。

 

パラダイス              山頂にて斉藤ちゃんと      14番リフト

一番山頂に行くゴンドラが故障したようで止まっている。23番リフトで山頂に行き急斜面のワイプアウトを滑った後、裏側の14番リフトに行ってみると、青空に真っ白な樹氷が映える息を呑むような素晴らしい景色であった。13番リフトの下でコースから少し外れて端の深雪に突っ込んでいったらいきなり雪に隠れた切り株が表れ、避けようとしたら両スキーが吹き溜まりに突き刺さり、いきなり両スキーがはずれ私は雪の中に投げ出されてしまった。一回転して起き上がりあたりを見ると岩も出ている。これだけ雪が積もったから大丈夫と思っていたのにこんなこともあるのである。幸いなんともなかったが、オフピストを滑るときは十分に気をつけなければならない。

気がつけば午後2時半になっていた。昨日に続いてついつい雪が良いので飛ばしすぎで無理をしている。キャニオン・ロッジに向かって帰路に就く。今日最後の体力を振り絞って16番リフト下のモーグルを滑る。佐野さん、斉藤ちゃんの後、一気に下まで降りた。まだシーズンが始まって日がないのに雪が良いとは言いモーグルでこの斜面を一息で下りるのは私としては早い仕上がりであるが、途中で2回ほど攻めきれず逃げているのが自分では分かるので満足出来る滑りではない。

 

12月28日さらに1週間後の1月4日の日曜までマンモスに篭もると言う佐野さんを独り残してロスに戻る。その後マンモスでは元旦に一日で40インチという記録的な積雪に恵まれ、まだ寒い気温が続いており、スキーヤーには近年にない当たり年となっている。私は風邪で喉をやられ、咳が止まらず週末にマンモスにもどれなかった。佐野さんは入れ替わりでマンモスに入った原ちゃんと素晴らしい雪を堪能して、スキー仲間に私のことを聞かれていると連絡がはいっている。うらやましいが、まだスキーシーズンは前半である。あせらずに風邪を治して、雪上に早く戻りたい。

完