覆面スキーヤー   2007年1月1日   小堺 高志

12月26日にマンモスから戻った翌日、マンモスに山篭り中の佐野さんから私のオフィスに電話が入った。「昨夜からの16インチの新雪で、今日は凄く良かったよ」。私が行けないのにコンデションは良くなっている。年末に行かないと言ったが滑りたい。そこで策を練った。12月30日から1月2日まで休みであるが12月30日の土曜日早朝に出発し、一日だけマンモスに行って滑り、翌朝帰ってくるという計画を実行する事にした。

一人での運転はきついので以前から行きたいと言っていた30年来の友達でミュジシャンでありプロデューサーでもあるマキちゃんに声をかけると行きたいという。

私と一緒に帰ったばかりの原ちゃんが29日にマンモスに佐野さんを迎えに戻るので、作戦を成功させるために、彼にだけ作戦を伝える。題して「覆面スキーヤー作戦」。その内容とは 私は30日土曜の早朝4時にマキちゃんをピックアップして朝8時半のマンモスのオープンに合わせてこっそりとスタンプアレーからゲレンデに出る。その際、誰も私が来ていると知らないので私は覆面をかぶり、いつもと違うスキーウエアで、彼らにいきなり合流して驚かすというものである。

 

朝3時半に家を出て、途中にあるマキちゃんの家に行き、彼をピックアップしてマンモスヘ向かう。この時間帯にマンモスに向かうのは珍しい。彼が最近日本で出したCDを聞きながら走る。道路が空いているので予定通り8時半にはスタンプアレーの駐車場に着いた。そこで今年の夏 日本で買った、今まで履いたとこのない薄いグリーンのスキーズボンに着替える。上にはめったに使わない薄手の赤のウェアを着る。更にフルフェースの防寒用のスキーマスクをしてサングラスをする。これで格好からは私と確信のとれる人は居ないであろう。

    
覆面スキーヤー                 こんな感じで正体は分かりません

 

晴天で無風に近い。マンボを下りると雪質も良く最高である。そのまま佐野さんたちを探して5番リフトの斜面を2回滑った後、フェースへ向かってショートカットをする。途中少し瘤の斜面がありマキちゃんには少し辛かったか?でもフェースの正面に出たら中級用の斜面になる。10時半頃ミルカフェにいって休憩をしていると目の前のスタンプアレーのリフトラインに見慣れたスキーウエアが並んだ。佐野さん、原ちゃん、嘉藤さん、斉藤さん、沼ちゃんを確認する。さて覆面スキーヤーは何処で乱入するか?マキちゃんに休んでいてもらい一人用のラインに並んでリフトに乗るが、思いのほか一人用のラインは進まず、彼らはかなり先を行ってしまった。リフトから降りたが、彼らがどの方角に行ったか分からない。スタンピーの方には下りてこなかったので可能性としては3つある。フェースリフトに乗ったか、マッコイで休憩にはいったか、裏を通ってメインに向かったかである。休憩に入っていると面倒だなと、思いながら一番良いシナリオであるフェースリフトに乗って裏側を下りてくるという予想にかけてしばらく待っていると「ビンゴ!、どんぴしゃり!」、上方斜面途中に彼らが集まっているのが見える。このパターンでの彼らの行動は読める。嘉藤さんが先頭で滑り下りてくるとその後に次々と続いて滑り出す。彼らに背を向けて直ぐ近くを行くのをやり過ごす。嘉藤さんに続いて斉藤さん、原ちゃん、佐野さん、沼ちゃん、がスタンプアレーの方に向かっている。一番良いパターンである。どん尻の沼ちゃんが通り過ぎると、いよいよ覆面スキーヤーの出番で彼らを追い始める。高速で沼ちゃんを追い越して、前を行く佐野さんを捕らえる。佐野さんの右側から彼の目の前にカットインしてショートターンで彼の滑るライン上に出て嘉藤さん達を追う。嘉藤さんがマンボの入り口で停まった。嘉藤さんの後、斉藤さん、原ちゃんが停まってこちらを見ている。彼らに向かってショトターンをしていって直ぐ横を通って、私は停まらないでそのままマンボのコースに入り彼らが見えなくなったところで停まり、彼らの次の行動を待つ。まもなく嘉藤さんが下りてきて私の横に停まり、「小堺さんでしょう?」「違います」他のメンバーも追い尽きてきたので正体を明かす。佐野さんはまだ信じられないと言う顔をしている。作戦成功である。

 

この間を反対側の視線で見ると以下のようになる。

フェースの裏側からサドルボール途中で全員集合して、次はマンボの入り口で一度集合しましょうと嘉藤さんが先頭で滑り出してまもなく、佐野さんは後ろから強引に自分のラインに割り込むスキーヤーに出会う。「失礼な奴だな、人のラインに入ってきて、でもなかなか良い滑りをする奴だ」と思いながらそのスキーヤーの後を行くと、そのスキーヤーはショートターンで前方に待つ嘉藤さん達の方に真っ直ぐ進んでいく。そして嘉藤さんたちの直ぐ横をかすめる様にしてそのまま滑り降りていく。皆のところで停まって「今、私の前にいきなり入り込んできた失礼な奴が滑って行ったよね」と言うと皆も見ていて、「小堺さんに似てたよね?」と嘉藤さんが言う。原ちゃん「・・・・・・・」佐野さん「服装は違うし、彼は今回来ていない、しかし滑りはよく似ていた。似た奴がいるものだ・・・・・」「どんな奴かもう一度確認しよう」という話になり、嘉藤さんがその覆面スキーヤーを追う。全員も続く。やがてマンボコースの前方に黒い覆面をかぶったそのスキーヤーが停まっているのを見つけ嘉藤さんらが話しかけている。小堺氏に似ているが、追いついてよく見れば服装は違うし顔は隠れて見えないが・・・「え!小堺氏?」

 

佐野さん、がっかりだよ。こんなに永く一緒に滑って来たのに、私が目の前を行っても私と分からないとは!」彼に言わせれば「小堺氏は今回は居ないと思っていたので、まったく頭に浮かばなかった」とのこと、作戦大成功である。

 

ミルカフェに降りてマキちゃんと合流。皆に彼を紹介してマッコイに移動して昼休みとなる。今日はコンドで留守番をしているマリちゃんが、私達の分もサンドイッチを作ってくれていた。佐野さんは朝、その人数分より多いサンドイッチをみて、原ちゃんに聞いたそうだが、少食の原ちゃんが珍しく「私が食べる」と言ったのを訝しく聞いていたが、覆面スキーヤー計画がこういう形で進められていたとは夢にも思わなかったと言う。

 

午後から山の裏側の斜面に行く。前回苦労した斜面であるが今回は雪が付いているから大丈夫かと思ったが、やはりゲレンデが荒れていてマキちゃんには大変であった。これは私のミスリードである。やっと12番リフトに戻り、マキちゃんにはメインロッジで待ってもらい、私は12番リフトで彼らを追う。しかし今回は何処のリフトラインも長く待ち時間が読めない。やっとリフトに乗った時には彼らはすでにかなり先に居り、途中で滑り降りてくる彼らをリフトの上から見ることとなる。またしても見失ったが次に彼らが向かいそうなのは29日に良かったと言うブロウドウエイ横のいつもレースコースのある26番リフトであろう。26番はレースに使われていなければ短いリフトであるが、ほとんど待ち時間がなく乗れる。足が痛いというマキちゃんに先にスタンプアレーを下りてミルカフェで待っていてもらい、26番リフトでやっと彼らに追いつき2本ほど滑る。コース中央は幾分アイシーであるが端はまだ良いコンデションの雪質が残っていて、結構気持ちよく滑れた。そのまま滑ってキャニオンロッジに向かう佐野さん、原ちゃんを見送り、ミルカフェのパーキングで車に戻る。

コンドでマキちゃん差し入れのシャンペンでカンパイして一日を締めくくると今年も残すところ後一日である。

  マンモス山頂のマキちゃん

 

翌朝、8時に私達はマンモスを後にする。もう今日は大晦日である。また気温が幾分上がってきた。マキちゃんは今回久しぶりのスキーで体力が付いてこず、辛そうであった。その上私のミスリードできつい斜面に行ってしまい余計に疲れさせてしまった。これでは斉藤さんのリードと変らなかった、と反省している。これに懲りず、また空きがあったら誘うので、次はもう少し体力をつけて再挑戦して欲しい。

今夜はカウントダウン、スキーを共にした仲間がいろんな場所で今回のスキーを思い出しながら新年を迎える。覆面スキーヤーの話題も出ることであろう。2007年は直ぐそこまで来ている。来年が良い年でありますように。

 

謹賀新年