出ちゃったよ         2008年  4月14日   小堺 高志

「出ちゃったよ!」と佐野さんが電話してきた。明日マンモスに行こうという木曜日である。お化けが出たわけではない、佐野さんの抱える持病、通風が久しぶりにでたらしい。今までも何度もでて、その都度、薬で抑え、痛み止めを飲みながらでもスキーをして来た。ヨーロッパに行く前でなくて良かった。まー今回は佐野さん滑れなくてもいいスキーであるが、薬で抑えて滑れそうだと言う。

原ちゃんも持病のヘルニアが出てきたようで、今月末にMRIの検査だそうだ。そういう訳で今回は薬がないと滑れないと言う二人の病人を連れてマンモスに向う事となった。私は付き添いの看護士か?

そもそも私に言わせれば通風は美味いものを食べて飲んで来た人に多く出る贅沢病である。ビールはプリンタ体を作るからもっての他である。佐野さん、今回は3日ほど前から通風が出て、すでに良くなりかけていると言うが、びっこ姿をみて、これからスキーに行く人には見えない。しかしびっこを引きながらもスキーに行こうという根性は立派である。道路が今日は驚くほど空いている。

 

シャモニーに着くと菊池さんが待っていた。それから2時半までまた長い夜の宴会。

佐野さんはビールはいけないがウイスキー、焼酎なら良いと言う。そういう問題じゃないと思うが、焼酎を少し入れたお湯というのを飲んでいる。それって、ずばり焼酎のお湯割でしょうが。

 

懲りない面々が起床したのは8時を回っていた。このところ暖かい日が続いている。外は雲ひとつない快晴である。さー行ってみようか!10時少し前にゲレンデへむかう。

びっこの佐野さんとヘルニア持ちの原ちゃんはコンドの前でシャトルバスを待つ。わずか250mほどの距離であるが、歩くのもつらいらしい。その格好でスキーに行こうというんだから、佐野さんには悪いが笑っちゃいそうである。出るとすぐシャトルバスがきた、予定していなかったがタイミングよく私も乗り込む。先に歩き始めていた菊池さんを追い越し、キャニオンロッジに着く。バスの中ではローリングストーンズの曲がかかっていた。わずかな距離であるが、今日はついている。朝からご機嫌である。

 

バスを降りてびっこの佐野さんに合わせてそろりそろりとロッカーへ向う。

佐野さんの今日の目標はマッコイステーションまでたどり着くこと。そしてキャニオンロッジに無事に帰ってくること、という至って謙虚な望みである。

スキー靴を履いたらギブス効果で、佐野さん結構歩ける。ゲレンデに出でたら痛み止めが効いて来たのか、マッコイまでいけそうである。ウオール ストリートを滑ってスタンンプアレーに行く、佐野さんは普通に滑っている。もう今日の目標をクリアしそうである。



びっこを引きながらゲレンデに向う佐野さん

 

スタンプアレーのリフトラインで嘉藤さんが声をかけてきた。今日は鈴木さんの奥さんと一緒である。一週間くらいマンモスにいたそうだが、今朝はカナダのナショナルチームと一緒に滑っていたと言う嘉藤さん、やはり リフトの上から見る滑る姿は上手い。去年から比べるとかなり体重を落として身軽になりスマートになったのがわかる。雪質は春のコンデションで朝の硬い雪質が時間とともにどんどん軟らかくなる。

 

アッパードライクリークに向うとちょうどいい具合に解けた雪は滑りやすい。2本目、私はリフト左側のあまり人の滑っていない斜面へ。ここはまだ硬くて荒れたままなのでスキーにがたがたと振動がくる。

上にいる3人にここを避けてもっと左に向かうよう、合図を送るがなぜか佐野さんだけ下りて来てしまった。「いって、て、て、て」と言いながら私に追い付く。それはそうだ、私の合図を見ないで下りてくるから。滑っている時はびっこを引きようがないが、やはり右足をかばい、左足に体重を乗せている時間が長いので、結果として右へ右へと行ってしまう佐野さん。

フェースに戻ったところで原ちゃんもヘルニアの痛みが出てきたそうで、病人二人はピットイン。私は菊池さんとメインロッジに降りて来期のmvpシーズンパスを買う。576ドルである。まだお買い得であるが去年より50ドルほど値上がりした。今日のゲレンデがいつもより空いているのはガソリンの値上がりも絶対に影響していると思う。

午後からゴンドラで山頂にあがる。無風で雲ひとつない青空がまぶしい。私は3人と別れてゴンドラの下にあるクライマックスという急斜面にむかう。ちょっとアイシーで大きな瘤があり、あまり良い斜面ではなかった。下で3人と落ち合うと、ビキニ ラン フロム ザ トップ と言う催しがあって、何人かのビキニ の女性が 午後1時に山頂から滑りおりたらしい。先頭を行った原ちゃんだけが5人ほどのビキニ美女軍団を見たが、他のメンバーは見逃したと言う。

 

ウエストボールのパンプ斜面を2本ほど滑るが、大きな瘤があり、飛ばされる。雪は軟らかくモーグルには良いコンデションのはずだが今日はスピードに足が付いていけない。原因はだいたい想像できる。スキーに来る3日ほど前からモーグルに備えトレーニングで急激な負担を太ももに与えたため、太ももが疲労していて踏ん張りがきかない。トレイニングはもっと早くからやっておくべきであった、調制ミスである。

 

2時くらいに、先に私だけレッドウイングに向う。ここは傾斜も瘤もウエストボールよりかなり易しい。しかしスキーが走るので付いて行くのに大変である。4本ほど滑ってやっと少し慣れてノンストップで下りれるようになったところで今日はおしまい。


    

 

佐野さん通風は温めるのが良いのか、冷やすのが良いのか未だに知らないと言う。今日はとりあえず温めてみようか?と佐野さんの足を温めにビールを持ってジャグジー、サウナにいく。

青空のもとで気持ち良いい。温められた佐野さんの足もよさそうでびっこも軽くなった。しかし私としては冷やすのもやってみたい。

今回の夕飯は原ちゃんが前からリクエストしていた酢豚である。昨夜から下ごしらえをしていたので楽である。仕上げに温めてとろみを付け大きなフライパンで8人前くらい大量の酢豚の完成である。

私としては明日の朝か昼にも食べられるくらい酢豚を作ったつもりであったが、好評でワインを飲みながらどんどん減っていく、そして結局全部食べつくしてしまった。


   
空瓶の山と、後片付けをする感心な酔っ払い達
 

翌朝も快晴。朝から食欲がある。昨日酢豚を食べつくしてしまったので、冷蔵庫にある残り物で一品つくる。貝柱とジャガイモのバター炒めである。食べ終えた佐野さん、「貝柱と大根の炒め物がなかなか美味かったね」と言う。思わず全員「えーー!」またまた出ちゃったね。大根とジャガイモの違いを判別しない佐野さんの味覚、あわてて言い直しても後の祭り。絶対に大根だと思って食べていたと思う。

今回も次々とエッセイのネタを提供してくれる佐野さん、本当に書く方としては感謝している。佐野さん最高だよ。

 

キャニオン エックスプレスから5番に乗り継ぎ、ソルチュードを滑る。グルームしてある斜面は滑り易い。佐野さんも今日は真っ直ぐ滑っている。再び5番リフトに乗り、上から見たコヨーテという普段我々があまり滑らない斜面が程よく雪が緩んで良さそうにみえる。あそこに行って見ようよという事になり、リフトを降りると原ちゃんが飛び出した。私が後に続く、佐野さん、菊池さんが付いて来る。原ちゃんを追っかけて気持ち良く滑る。原ちゃんノンストップでローワークリークの入り口まで行き止まる。何時もの原ちゃんらしくない積極的な滑り。「腰は大丈夫なの」と聞けば「今日は痛み止めを2種類くらい飲んでいるので、調子が良い」との返事。それって所謂らりっている状態じゃない?道理で何時もは しんがりを勤める原ちゃんらしくないと思った。

小休止の間に私はウエストボールのバンプの具合を見に行く。まだ硬くてだめである。モーグルはあきらめて、23番で山頂にあがり、コニースを下りる。今週末はここのすぐ下からコースが作られレースが行われている。そろそろ全米のスキー場は閉められ始め、レーサーたちがまだ雪のあるマンモスで合宿しているようである。

 

裏側の25番に下りるとここは早くから陽に照らされていたので丁度良い具合になっている。佐野さんが9番に行こうという。9番はマンモスで一番長い、林間コースである。普段は何度も期待を裏切られる雪質を掴み難いコースである。今朝はやけに病人の二人が元気である。騙されたつもりで9番に向う。滑り出しは急斜面で大きな瘤がある。私が先頭で下りて瘤が終わったところで止まって振り返る。当然、他の3人はまだ瘤に苦労しているだろうと余裕の振り返りであったが、なんと佐野さんがすぐ後ろにいた。原ちゃん、菊池さんもすぐに追い付く。予定外に元気な皆さんに煽られてしまう。

 

イーグルのリフトで戻って、8番リフト降り場に下りる林の中を行く。急斜面で木の間を縫うように下りていく難コースであるが、これまた佐野さんが行ってみようと言ったコースである。積極的な佐野さんの提案に反対する理由はない。緩くなった雪面は丁度新雪のような感覚である。ゆっくりと確実なターンで下りていく。今度は付いて来ていないだろうと振り返るとすぐ横にいる、昨日の病人が今日は嘘のようである。8番リフト降り場に着くと、ここからは何時ものコース、レッドウイングの瘤を滑る。これで上がるという皆を置いて私はもう一本レッドウイングを滑るため8番リフトにのる。今回最後の一本になる。踏ん張りの足らなかったモーグルを気合を入れて踏ん張って、最後の一本はやっと様になる滑りが出来た。


    
5番リフト上の私                       5番リフトから山頂を望む            23番リフト    

    
ぶっ飛んでいくレーサー              9番を流す菊池さん               真っ直ぐ下りて来る佐野さん
 

キャニオンロッジも今月いっぱいで閉められ、滑降可能な面積は半分になってしまう。私は今月後半はニューヨーク、シカゴへ出張のため、しばらくスキーに来られない。

5月一杯はまだ春スキーが出来るはずである。来月からはフィッシングシーズンも始まる。次は体調を整えて万全のコンデションで戻りたいものである。

まだ真っ白いマンモスがバックミラーに消えてゆく。